露骨な男尊女卑で逆転勝利した韓国「尹錫悦」新大統領は、トランプの劣化版
MISOGYNY PREVAILS IN SOUTH KOREA
韓国大統領選で勝利した尹錫悦 LEE YOUNG-HOーSIPAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<歴史的な僅差の末に、韓国大統領選を制した尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長が、巧みに利用したメディアと反フェミニズムの機運>
あれは5年前の3月10日のこと。韓国の憲法裁判所は全員一致で、議会で弾劾された朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の罷免を合憲とする歴史的な判断を下した。所長代行の李貞美(イ・ジョンミ)が判決文を読み上げると、韓国政界に激震が走った。
大統領の弾劾に抗議するデモでは3人の死者が出ていた。国軍が戒厳令によるデモ鎮圧を計画したが、寸前で思いとどまったことも後に判明した。一方、朴政権に反対する人々は一致団結し同年5月の大統領選でリベラル派の文在寅(ムン・ジェイン)を勝利に導いた。
その李貞美が再び注目を浴びたのは今年1月。既に憲法裁判事は退任していたが、今度は原告側の弁護人として、国を相手に文政権の進める総合不動産税(CRET)構想について違憲訴訟を提起したのだ。高額な住宅を所有する個人や法人に対し、通常の固定資産税に加えて特別な累進税を課す計画で、いわゆる富裕税の一種だ。
実際、CRETの課税対象となるのは国内にある全住宅の2%にすぎず、税額も高くはない。例えば価格130万ドル以上の住宅を所有する個人の場合、CRETの税額は年間で400ドル程度だ。それでも李貞美を含む原告団は、CRETは憲法で認められた財産権と平等の原則に違反していると法廷で主張した。
勝敗を分けた不動産課税の強化への反発
思えば、これが予兆だった。去る3月9日、かつて朴槿恵が率いた自由韓国党の後継政党である「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)が、次期大統領に選出された。歴史的な僅差の勝利だったが、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補の猛追を振り切った。勝敗を分けたのは、不動産課税の強化に対する有権者の反発だった。
そもそも尹は、朴槿恵の犯罪を暴いたキャリア検察官だった。だから当初はリベラル派の間で大きな支持を得ていた。しかし2019年に検事総長に任命された後は、検察の権限を縮小しようとする文政権の改革に激しく抵抗。曺国(チョ・グク)法相やその家族に対する数々の疑惑を追及して曺を辞任に追い込み、一転して保守派の寵児となった。
そして昨年6月、尹は「国民の力」から大統領選への出馬を表明した。しかしその後の展開は、まるでドタバタ喜劇のようだった。
現政権で検事総長に起用された男が野党に寝返り、政治経験もないのに9カ月後の大統領選を目指すというだけでもかなりの珍事だ。しかも「一日一失言」と揶揄されるほど失言・放言が多かった。