最新記事

大統領選

露骨な男尊女卑で逆転勝利した韓国「尹錫悦」新大統領は、トランプの劣化版

MISOGYNY PREVAILS IN SOUTH KOREA

2022年3月25日(金)18時00分
ネーサン・パク(弁護士、世宗研究所非常勤フェロー)

220329P46_KAN_02.jpg

朴槿恵の弾劾訴追の妥当性を審議する憲法裁判所の李貞美所長代行(中央)(2016年12月) JUNG YEON-JEーPOOLーREUTERS

かつて朴が「祈禱師」の娘との腐敗した関係のせいで弾劾訴追された記憶がまだ新しいのに、尹自身も数多くの祈禱師(肛門専門の鍼〔はり〕師との関係も取り沙汰された)と不可解な付き合いがあった。彼の義母は文書偽造や給付金の不正受給で何度も有罪判決を受けていたし、それに妻が関与しているとの疑惑もあった。常識的に考えれば、こんな人物が大統領になれるとはとても思えない。

だが、それでも尹は勝った。

尹は組織の力に頼り、昨年11月に実施された「国民の力」の予備選では、保守派のベテラン議員で世論調査では自分よりも支持の高かった洪準杓(ホン・ジャンピョ)になんとか競り勝った。

選挙戦の流れを変えたメッセージ

しかし1月段階ではマイナス材料が一気に噴出していた。党内の複数派閥が反旗を翻し、「国民の力」の選対本部が機能を停止した。党の李俊鍚(イ・ジュンソク)代表──反フェミニズムの急先鋒として韓国の若い男性の間で大きな支持を得ている──は最終的に尹を支持したものの、2度も尹の選挙応援を取りやめるという異常事態があった。

1月第1週の世論調査で、尹は与党の李在明に7~9ポイントの差をつけられていた。

彼がその劣勢から抜け出せたのは露骨な男尊女卑の姿勢と、反フェミニズムの風潮をあおる保守系メディアのおかげだ。

若い男性たちの意見を取り入れて陣営スタッフを縮小した後、尹はフェイスブックの自分のページに「女性家族省廃止」というシンプルなメッセージを投稿した。さらに彼は、国際女性の日であった投票日前日にも再びこのメッセージを掲げると、賛同のコメントが殺到した。

自分たちのスターである李俊錫が尹への態度を二転三転させたことで大統領選への興味を失いつつあった反フェミニズムの若い男性有権者は、これにすぐに反応した(ちなみに問題のメッセージを作成したスタッフは後に、公共の場で女性の隠し撮りをした容疑で逮捕された)。世論調査での尹の支持率は数週間のうちに急上昇し、2月半ばには対立候補を9ポイントリードしていた。

李のスキャンダルにも救われた。李の足を引っ張ったのは、京畿道城南(ソンナム)市にある大庄洞(テジャンドン)の宅地開発疑惑だ。14年に官民共同で行われたこの開発事業で、民間企業側は入札の便宜を図ってもらうため、公社の関係者らに賄賂を贈っていた。

当時、李は城南市長だったため、自身の収賄疑惑が浮上。尹にとっては絶好の攻撃材料となった。尹のSNSでは、「李在明」と「大庄洞」という単語の登場回数が自身の名前より多かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中