最新記事

ウクライナ危機

プーチンは戦争に負けたことがない、この戦争は長くは続かない

WHY PUTIN WILL WIN AGAIN

2022年3月9日(水)15時50分
ビル・パウエル(本誌元モスクワ支局長)、ナビード・ジャマリ(本誌記者)
ウラジーミル・プーチン

PHOTO-ILLUSTRATION BY GLUEKIT; SOURCE PHOTO BY XANDER HEINL/GETTY IMAGES

<チェチェンでもクリミア半島でも目的を果たしたこの男は、ウクライナでも勝って西側諸国への復讐を遂げる>

ロシアと西側の意地と力のぶつかり合いにウクライナが翻弄されるなか、忘れてはならない大切なことがある。ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンは一度も戦争に負けていないという事実だ。

政権掌握以来20余年、プーチンはチェチェンやジョージア(グルジア)、シリア、クリミアで戦ってきたが、軍部には常に明確で無理のない目標を与え、結果として勝利を宣言し、ロシア国民を納得させ、しぶしぶながら国際社会にも結果を認めさせてきた。

ウクライナでも、たぶんそうなる。

対ウクライナ国境でのロシア軍増強は何カ月も前から続いていたし、いつ侵攻が始まってもおかしくないと米政府は警告していた。

それでも2月24日未明の空爆(と、それに続く欧州大陸では今世紀初となる大規模侵攻)は、ウクライナ国民の多くにとって想定外だったようだ。

自国の大統領ウォロディミル・ゼレンスキーが繰り返しロシアの侵攻はないと語っていたこともあって、国民はあえてリスクを忘れようとしていたのかもしれない。同じスラブ民族の国が攻めてきて、主要都市の軍事施設や空港を破壊するとは思っていなかった。

だがロシア軍は東部の主要都市ハリコフを襲い、1986年に悲惨な事故を起こしたチェルノブイリ原発を制圧し、あっという間に首都キエフに迫っていた。テレビで見る限り、それは2003年にアメリカがイラクに仕掛けた「衝撃と畏怖」作戦の再現だった。

あの日、プーチンは一瞬にして、冷戦終結後のヨーロッパにおけるNATO(北大西洋条約機構)主導の安全保障秩序を破壊した。

多くの軍事アナリストは、キエフが陥落すればロシアは政治的解決に動き、親ロシアの傀儡政権を樹立して軍事行動を停止するとみている。プーチンの考え方からすれば、それだけで十分に西側諸国の面目をつぶせるからだ。

そう、アメリカ主導のNATO陣営に屈辱を味わわせる。それがプーチンの狙いなのだろう。

もちろん、ウクライナはまだNATOの一員ではない。だが旧ソ連の構成国でNATOに加盟した国はたくさんある。これ以上に増えるのは困る。そう思うから、プーチンはここで勝負に出た。

外交専門誌「ロシア・イン・グローバル・アフェアーズ」の編集長フョードル・ルキヤノフによれば、プーチンはソ連崩壊後の東欧の現状を「決して受け入れていない」。

そして「ソ連崩壊後のロシアは(西側から)二流国扱いされてきたと思い込んでいる」。

西側の外交官や情報機関は今、プーチンが親欧米のゼレンスキー政権を倒し、自分に忠実な新政権を据えるつもりだとみている。

元エストニア大統領のトーマス・ヘンドリック・イルベスが言うとおり、プーチンは「現代の皇帝」気取りだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中、関税率を115%引き下げ スイスの閣僚級協議

ワールド

イスラエル系米国人の人質を12日に解放へ、ハマスが

ビジネス

第一生命HD、英キャプラをグループ化 出資比率15

ビジネス

マツダ、今期業績予想の開示見送り 関税影響4月は9
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中