プーチンは戦争に負けたことがない、この戦争は長くは続かない
WHY PUTIN WILL WIN AGAIN
だから復讐したい。徹底したナショナリストであるプーチンの描く夢は、新たなロシア帝国とその勢力圏の形成だ。
ソ連時代ほど広くなくていい。たいていの人がロシア語を話せて、東方正教会の信徒で、昔はキエフを、その後はモスクワを政治・文化・信仰の中心と見なしてきた国々を結集できれば、それでいい。
具体的には、まずはウクライナだ。そして今でも事実上の属国に等しいベラルーシ。さらにバルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)も帝国に加えたい。
プーチンは侵攻前の演説で、バルト3国のソ連からの離脱を許したのは「狂気の沙汰」だったと言い切っている。
それを聞いているから、アメリカは急いでNATOの部隊と武器を追加でバルト3国に送ることにした。この先も部隊の増強は続くだろう。
既にバイデン大統領は、同盟国の1つにでも攻撃があれば、迷わずNATO憲章第5条に基づく集団的自衛権を行使すると明言している。つまりバルト3国や、ウクライナと国境を接するポーランド、ルーマニア、ブルガリアなど、旧ワルシャワ条約機構の構成国で今はNATOに加盟している諸国にプーチンが攻め込んだ場合、NATO全体がロシアとの戦争状態に入る。
プーチンには、ウクライナ侵攻でNATOの団結を揺さぶる意図があったと思われる。かつて国防総省の情報局副長官だったダグラス・ワイズに言わせれば、「同盟国間の亀裂を深め、既存の摩擦や不一致を固定化する」狙いがあった。
また西側諸国の指導者や組織は、ロシアによる軍事侵略に対抗する効果的かつ現実的な選択肢を示せなければ恥をかくことになるが、それもプーチンの望むところだろう。
大胆不敵なウクライナ侵攻で、プーチンが国内で何を手にするつもりなのかは今のところ不明だ。しかしNATOの結束を揺るがすことが目的だったとすれば、それは失敗に終わったと言える。
ドイツを見ればいい。ドイツはロシアとの貿易関係が深く、ロシアに対しては弱腰だとみられていた。実際、今回も当初はそんな感じだった。
例えば、エストニアが自国の保有する古い榴弾(りゅうだん)砲をウクライナに譲ろうとしたときのこと。
NATOの規則では、非NATO加盟国に武器を譲渡・販売する場合は、その武器の原産国の承認を得なければならない。だがこの榴弾砲の原産国は旧東ドイツで、既に存在しない。しばらくは東西統一後のドイツが管理していたが、やがてフィンランドを経由してエストニアに譲渡されたものだ。
エストニア政府はこれを、ウクライナの防衛力強化の足しになればと思って譲ろうとしたが、ドイツ政府が反対した。