非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す
Nuclear Fears Intensify As Ukraine War Builds. What Is Putin's Threshold?
とんでもない論理だが、そんな考え方をするのはプーチンに始まった話ではない。かつて同じようなことが数十年間、標準的な軍事ドクトリンだった時代があった。冷戦期、欧州におけるロシアの通常戦力は圧倒的だと考えられていた。NATOにとって核兵器の使用は、それを撃退するための最後の手段だったのだ。
同じことは、通常戦力に勝るインドに対するパキスタンの核戦略にも言えるし、韓国軍とアメリカ軍に対する北朝鮮の核戦略においても言える。そもそも国家が核兵器保有を望むようになった大きな理由が、通常戦力における劣勢だったのだ。
戦闘のエスカレートは、熟慮の上に下された決定の結果として起きるとは限らない。一瞬の誤解や誤算の結果として、意図せず起きることもある。
たとえば戦闘が激しさを増し、西側諸国がウクライナに武器供与を続けるにつれて、西側とロシア軍が対峙することになるリスクは高まる。プーチンが「ウクライナでの軍事作戦に介入する者に対しては、核兵器の使用も辞さない」という脅しをちらつかせた時、彼の頭の中にはウクライナに武器を供与する西側諸国の存在があっただろうか。訓練や武器・戦車・戦闘機の供与を通じてウクライナを支援しているNATOの軍事顧問についてはどうだろう。
NATOとロシアの戦争は起こり得る
今後の戦況がロシアにとって不利なものになり、ロシア軍の司令官たちが、西側から提供される武器などの物資がその原因だと考えれば、ポーランドやスロバキア、ルーマニアとの国境沿いを空爆することで、物資の流入を阻止しようとする可能性もある。そうなれば、ロシア軍の戦闘機がNATO加盟諸国との国境に接近することになり、誤ってNATO圏内の標的を爆撃する事態もあり得るだろう。そしてそのような誤爆は、紛争を大幅に悪化させることになる。
そうなったとき、NATOはどうするのか。劣勢になったNATOは、ゼレンスキーらの求めに応じて、ウクライナの上空に飛行禁止空域を設けるだろうか。そうなれば紛争はすぐに、NATOとロシアの争いへとエスカレートするだろう。「全てはあり得ない筋書きのように聞こえるだろうが」と、ある軍事アナリスト(匿名)は言う。「今やあり得ない筋書きではない。十分に起こり得ることだ」
誤解が想定外の事態や戦闘を招いた例は、過去にもあった。米ソ間の核戦争勃発についての懸念が高まっていた1983年、ソ連(当時)の領空で韓国の民間航空機が撃墜され、何百人もの民間人が死亡した。本来のルートを外れて領空に入った民間機を、ソ連側が米機と誤認して撃墜したとされている。