最新記事

ウクライナ情勢

非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す

Nuclear Fears Intensify As Ukraine War Builds. What Is Putin's Threshold?

2022年3月8日(火)19時50分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

ロシア機がNATO加盟国の上空を通過するとか、NATO機がウクライナ上空に侵入するといった、何らかのミスや思い違いが核超大国同士の衝突をもたらし、ロシアが戦術核の1つを使うに至る可能性もないとは言えない。

1989年にベルリンの壁が崩壊し、その後にソ連が崩壊して以降、核による威嚇は人々の目には触れなくなった。だが冷戦スタイルの核の恐怖が再び表舞台に躍り出た格好だ。核戦争の可能性という暗雲の下で展開する、いわゆる超大国(アメリカ、中国、ロシア)の間の紛争。その舞台となるのはウクライナだけではないだろう。それほど遠くない未来に、ロシアの西側国境や中国の東岸沖を舞台にそうした紛争が起きるのは想像に難くない。

「核兵器が(国際政治の表舞台に)戻ってきた。もっとも、これまでいなくなったことなど一度もなかったが」と語るのは、ジョージタウン大学のケイトリン・タルマッジ准教授(安全保障論)だ。「現代における新しい要素としては、核兵器を保有する3つの超大国が、新たな競争的関係の時代に突入しつつあるということだ。私たちが話題にしているこの世界では、平時であれ危機の時であれ紛争の時であれ、国家間の相互関係に核の影が差している」

「ウクライナの戦争において私たちは、その影の『予告編』を見ているわけだ」

読みにくいプーチンの「一線」

プーチンは通常兵器での武力紛争を拡大することですでに危険な1歩を踏み出している。ウクライナの現政権などすぐにひっくり返る、大して戦わずとも倒せると当初は思っていたのかも知れない。ところがウクライナ側の抵抗に遭い、事態を打開する手が必要になった。ミサイルと迫撃砲で民間の標的を狙っているのは、ウクライナと西側への圧力を強め妥協を迫るために複数の大きな都市を包囲する前触れなのかも知れない。そんなことになれば、囚われの身になった市民たちは食料や水、電力の不足に苦しむことになる。

問題はこの計画が失敗に終わった場合にプーチンが戦術核使用に踏み切る限界線がどこかだが、それを読むのは難しいと専門家は言う。決断はロシアの国内政治や国際政治、ウクライナでの軍事作戦の進捗状態に左右されるだろう。国内の反対意見の抑え込みに成功したり、西側諸国の連帯に溝が生まれたり、ウクライナでの軍事作戦が順調に進めば、核の選択肢の必要性は薄れる。

だが、モスクワで戦争反対のデモが起き、ウクライナがロシア軍の攻撃をしのぎ続け、NATOの結束が固いままであれば、プーチンは崖っぷちに追い込まれる。戦術核をいくつか使っても自分の立場がこれ以上悪くなることはないどころか、よくなる可能性もあると冷血な計算をするかも知れない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政府、25・26年度の成長率見通し上方修正 政策効

ビジネス

フジHD、株式買い増しはTOBでと旧村上系から通知

ワールド

北京市、住宅購入規制さらに緩和 需要喚起へ

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中