最新記事

ウクライナ情勢

ノルドストリーム2制裁は、誰にとっての打撃になるのか

EUROPE’S ENERGY WOES

2022年2月28日(月)17時25分
クリスティーナ・ルー、ロビー・グラマー、セーラ・ハゴス
ノルドストリーム2

ノルドストリーム2はドイツのエネルギー戦略の要だったが(写真はパイプの製造工程) CARSTEN KOALL/GETTY IMAGES

<ガスプロムの完全子会社で、CEOは旧東独の元工作員。ノルドストリーム2はドイツのエネルギー政策の要だった。制裁は「ロシアに大きな痛手」だが、これで欧州エネルギー危機の深刻化が懸念される>

ロシア軍がついにウクライナに侵攻を開始したというニュースに国際商品市場は大揺れに揺れた。とりわけ懸念されるのはヨーロッパのエネルギー危機の深刻化だ。

ウクライナ情勢が緊迫の度合いを強めた昨年末以降、アメリカが制裁強化をちらつかせてロシアを牽制するなか、ヨーロッパはエネルギー需給の見通しに戦々恐々としていた。

2月21日、ロシアがウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州の一角を占める親ロシア派の実効支配地域を「独立国」として承認し、軍隊派遣を決定すると、国際商品市況は急上昇した。

さらに24日、ロシア軍のウクライナ侵攻開始の第1報を受けて、原油価格は一時1バレル=100ドル台に跳ね上がった。3桁台まで上がったのは2014年以来だ。

ここ数日、エネルギー市場は「たびたび衝撃波に揺さぶられた」と、米シンクタンク・ニューライン研究所の研究員ユージーン・チャオソフスキーは話す。

ジョー・バイデン米大統領はロシアの侵攻開始の前日、天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」への制裁を発表した。

このパイプラインが稼働を開始すれば、ロシアからバルト海経由でドイツに直接、年間550億立方メートルの天然ガスが輸送されることになる。既に敷設工事は完了し、ドイツ当局の審査を経て承認を待つばかりだったが、アメリカの制裁発動で計画は中断し、ヨーロッパのエネルギー需給は引き続き逼迫する見通しとなった。

今後ロシアが攻撃範囲を拡大し、ウクライナ全土の制圧を目指せば、西側はさらに厳しい制裁措置を取らざるを得ない。

ハイブリッド戦争の一形態

ロシアは天然ガス生産で世界第2位、原油生産で第3位のエネルギー大国だ。石炭と小麦の輸出でも世界屈指を誇り、パラジウムや硝酸アンモニウムなど重要な資源の生産量も世界トップクラスだ。

西側がロシア経済を締め上げるために新たな制裁を科せば、これらの産品の供給は減る。締め付けがきつすぎれば、ロシアが報復措置として輸出を停止し、供給不足がさらに深刻化することになりかねない。

一部の専門家によれば、これまで商品市場は「戦争にはならないだろう」と高をくくっていた。侵攻のリスクを織り込んでいたら、もっと相場が上がっていた、というのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税、英ではインフレよりデフレ効果=グリー

ワールド

ロシア中銀、金利21%に据え置き 貿易摩擦によるイ

ビジネス

米、日本などと「代替」案協議 10%関税の削減・撤

ワールド

トランプ氏側近特使がプーチン氏と会談、ロシア「米ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中