ノルドストリーム2制裁は、誰にとっての打撃になるのか
EUROPE’S ENERGY WOES
本格的な侵攻が始まった今、アメリカが「金融制裁を発動し、ロシアが報復措置に出れば」、相場は天井知らずに上昇しかねないと、投資銀行RBCキャピタルマーケッツの商品戦略部門を率いるヘリマ・クロフトはみる。
「(ロシアが)ハイブリッド戦争の一形態として商品を利用し、自国の輸出を制限し、ウクライナの輸出を止め、商品価格を高騰させようとする事態もあり得る」
ヨーロッパはロシアの天然ガスに大きく依存してきた。ロシア産ガスはヨーロッパの供給量の40%近くを占めている。
アメリカと東ヨーロッパ諸国はドイツなどに再三、ロシア頼みの危うさを警告してきた。ロシアは西側の経済制裁に対抗するため、天然ガスの供給を「地政学的なムチ」として振るうことも辞さないだろう、と。
今ではその警告が現実味を増して、「ヨーロッパの人々を脅かしている」と、チャオソフスキーは言う。
バイデンはぎりぎりまでノルドストリーム2を制裁対象に加えることをためらっていた。
制裁が科されるのはパイプラインの運営会社ノルドストリーム2AGとマティアス・ワーニヒCEOら同社幹部で、同社はスイス企業だが、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムの完全子会社だ。ワーニヒはドイツ人だが、旧東ドイツの秘密警察の元工作員で、ロシア政府と密接なつながりを持つ。
バイデンは同社に対する制裁を発表した際、今後のロシアの動き次第で「次の段階」の制裁を躊躇なく発動すると警告。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はロシア産の原油や天然ガスを買い控えさせる「非常に強力な動機付けを世界に与えた」と皮肉った。
ノルドストリーム2をエネルギー戦略の要に位置付けていたドイツ政府も、バイデンの発表の前日にこのパイプラインの審査手続きの凍結を発表した。
ロシアはこの事業に巨額の資金をつぎ込んできたため、ドイツの決断は「ロシアには大きな痛手となった」と、チャオソフスキーはみる。
もっとも、ノルドストリーム2はまだ稼働していないから制裁対象になってもヨーロッパ向けのガス輸出が減るわけではない。だがトレーダーや投資家に与える心理的な影響は無視できないと、専門家は言う。
ドイツの審査凍結を受けて、ロシアはすぐさま市場心理を攪乱する戦術に出た。ロシアの前大統領で現在は国家安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフがこうツイートしたのだ。
「審査凍結だって? 結構なことだ。素晴らしい新世界へようこそ。ヨーロッパ人はすぐにも天然ガス1000立方メートルに2000ユーロも支払う羽目になる」