「ワクチン未接種者が外出すれば逮捕」 ドゥテルテがブチ切れたフィリピンの深刻な医療逼迫
2021年末の時点でワクチン接種を完了している人はフィリピンの人口1億1000万人の45%に当たる約4980万人にとどまっている。
ワクチン不足、医療スタッフ不足、そしてワクチン接種を希望しない市民の存在などが低い接種率につながっているとみられている。
ドゥテルテ大統領はかつて「(使用済みの)マスクはガソリンで消毒するといい」(2020年7月31日)「ワクチン接種を受けるか投獄されるかを選択することになる」(2021年6月21日)、「ワクチンを3回接種するとあなたは死亡する、それは間違いないことだ」(2021年9月30日)などという不規則発言をこれまで続けてきただけに今回の発言も「また冗談か」と国民は冷静に受け止めているのが実態だ。
大統領の過去の問題発言に「冗談に過ぎない」と反応してきた大統領府も、今回の発言には言及していない。
台風被害の復旧が最優先政策に
フィリピンは2021年12月にスーパー台風「オデット」(台風22号)の直撃を受けて中部セブ島、マクタン島、ボホール島などを中心に死者約400人、負傷者約1200人、行方不明者は80人以上に及ぶ被害を受けた。
これまでの報道によると被災者の合計は約50万人に達するという深刻な打撃を受け、電気、水道が途絶し、家屋破壊を受けた被災者の収容施設も不足するなど現在も各地で被災者支援、インフラ復旧が続いている。
台風被害に加えて被災地ではコロナ感染防止も急務となっており、フィリピン政府にとっては被災地の復旧とコロナ対策が最重要課題として迫られている。
こうした中、5月に実施される次期大統領選挙で大統領候補に立候補している世界的なボクサーで国民的英雄のマニー・パッキャオ氏らが被災者支援を表明。野党大統領候補のレニー・ロブレド副大統領は被災地を訪問するなど大統領選に関連した動きも活発化。ドゥテルテ大統領も被災者への経済的支援を表明している。
一方で大統領府は6日、マニラ首都圏と近隣のラグナ、カビテ、ブラカン、リサールの4州、バタンガス州、アンヘレス市など5州9市の防疫警戒度を9日から「レベル3」に引き上げることを決めるなど、コロナ感染拡大は待ったなしの状況に追い込まれている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など