最新記事

クーデター

ミャンマー裁判所、スー・チーに禁固4年判決 軍政、刑期積み重ね政治生命を断つ狙いか

2022年1月11日(火)16時32分
大塚智彦

スー・チー氏は今回の公判対象となった違法に無線機を所持した通信法違反や国家機密を外部に漏洩した国家機密法違反、さらにスー・チー氏が関係する団体に多額の現金や金塊が送られた汚職法違反、2020年11月の総選挙で不正に関与した選挙法違反など少なくとも11の容疑に問われて公判が続いている。

政治生命を絶つことに全力の軍政

軍政としては早期に全ての公判を終わらせて、禁固刑の実刑年数を積み重ねることでスー・チー氏の釈放・社会復帰の実現性を難しくすることで、反軍政の立場をとる国民の間にいまだに根強い人気と支持を削ぎ、政治生命を完全に絶つことを狙っているのは間違いないといわれている。

2月1日のクーデター1周年を前に、軍政はクーデターの正当性を内外に主張しようとしており、1月7,8日にミャンマーを訪問してミン・アウン・フライン国軍司令官と直接会談したカンボジアのフン・セン首相との間で東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係の重要性を確認したという。

さらに軍政は会談直後に戦闘が激化している少数民族武装勢力武装との停戦を一方的に宣言するなど「融和姿勢」をみせている。

しかし国内の反軍勢力などによると停戦宣言は一方的であり、その後も各地で戦闘が続くなど実効性にも乏しく「対外的ポーズ」に過ぎないとしている。

フン・セン首相はミャンマー軍政が後ろ盾とする中国と関係が深く、カンボジアであり、国内の反体制派、野党を強権弾圧して「独裁ぶり」を発揮しているだけにミャンマー国民からは「意味のない訪問」と酷評された。ASEANのコンセンサスを得られないままの訪問ということで、フン・セン首相の「スタンドプレー」の色合いが濃く、ミャンマー情勢になんらかの変化を与える訪問とはなっていないという実情もある。

ASEANはスー・チー氏を含めた全ての当事者、関係者との話し合いを要求しているが、軍政は「裁判の被告として公判中の人物との面会を認める国は存在しない」などとして面会を拒絶しており、これがASEANとミャンマーの対立の一因となっている。

またスー・チー氏との面会に関してフン・セン首相とミン・アウン・フライン国軍司令官の会談でも何ら進展があったとは伝えられていない。

軍政はスー・チー氏の弁護団に記者会見や情報発信を禁止する措置をとっており、今回の判決に関してもミン・ミン・ソー弁護士などスー・チー氏の弁護団からの情報はこれまでのところ伝えられておらず、判決公判でのスー・チー氏の様子などは不明となっている。

国際社会の軍政非難、欧米を中心とする経済制裁の中、軍政は武装市民や少数民族武装勢力との戦闘を激化しながら「クーデターによる国家統治」を着々と既成事実化。欧米とは異なるアプローチで仲介・調停を目指していたASEANも膠着状態に陥っており、ミャンマー問題の解決の糸口は全く見えない状況になっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、追加利上げ先送りの可能性 米関税巡る不透明感

ビジネス

仏ケリング、第1四半期は14%減収 グッチが予想以

ワールド

韓国GDP、第1四半期は予想外のマイナス 輸出減少

ワールド

インド、カシミール地方で観光客襲撃でパキスタンとの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中