ミャンマー裁判所、スー・チーに禁固4年判決 軍政、刑期積み重ね政治生命を断つ狙いか
スー・チー氏は今回の公判対象となった違法に無線機を所持した通信法違反や国家機密を外部に漏洩した国家機密法違反、さらにスー・チー氏が関係する団体に多額の現金や金塊が送られた汚職法違反、2020年11月の総選挙で不正に関与した選挙法違反など少なくとも11の容疑に問われて公判が続いている。
政治生命を絶つことに全力の軍政
軍政としては早期に全ての公判を終わらせて、禁固刑の実刑年数を積み重ねることでスー・チー氏の釈放・社会復帰の実現性を難しくすることで、反軍政の立場をとる国民の間にいまだに根強い人気と支持を削ぎ、政治生命を完全に絶つことを狙っているのは間違いないといわれている。
2月1日のクーデター1周年を前に、軍政はクーデターの正当性を内外に主張しようとしており、1月7,8日にミャンマーを訪問してミン・アウン・フライン国軍司令官と直接会談したカンボジアのフン・セン首相との間で東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係の重要性を確認したという。
さらに軍政は会談直後に戦闘が激化している少数民族武装勢力武装との停戦を一方的に宣言するなど「融和姿勢」をみせている。
しかし国内の反軍勢力などによると停戦宣言は一方的であり、その後も各地で戦闘が続くなど実効性にも乏しく「対外的ポーズ」に過ぎないとしている。
フン・セン首相はミャンマー軍政が後ろ盾とする中国と関係が深く、カンボジアであり、国内の反体制派、野党を強権弾圧して「独裁ぶり」を発揮しているだけにミャンマー国民からは「意味のない訪問」と酷評された。ASEANのコンセンサスを得られないままの訪問ということで、フン・セン首相の「スタンドプレー」の色合いが濃く、ミャンマー情勢になんらかの変化を与える訪問とはなっていないという実情もある。
ASEANはスー・チー氏を含めた全ての当事者、関係者との話し合いを要求しているが、軍政は「裁判の被告として公判中の人物との面会を認める国は存在しない」などとして面会を拒絶しており、これがASEANとミャンマーの対立の一因となっている。
またスー・チー氏との面会に関してフン・セン首相とミン・アウン・フライン国軍司令官の会談でも何ら進展があったとは伝えられていない。
軍政はスー・チー氏の弁護団に記者会見や情報発信を禁止する措置をとっており、今回の判決に関してもミン・ミン・ソー弁護士などスー・チー氏の弁護団からの情報はこれまでのところ伝えられておらず、判決公判でのスー・チー氏の様子などは不明となっている。
国際社会の軍政非難、欧米を中心とする経済制裁の中、軍政は武装市民や少数民族武装勢力との戦闘を激化しながら「クーデターによる国家統治」を着々と既成事実化。欧米とは異なるアプローチで仲介・調停を目指していたASEANも膠着状態に陥っており、ミャンマー問題の解決の糸口は全く見えない状況になっている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など