最新記事

軍事

中国「サラミ戦術+ドローン」が台湾を挑発する

TAIWAN ON THE BRINK?

2022年1月8日(土)10時45分
トビアス・バーガーズ(慶應義塾大学サイバー文明研究センター特任助教)、スコット・N・ロマニウク(カナダ・アルバータ大学中国研究所フェロー)

中国がUAVを使用した場合、台湾は厳しい選択を迫られる。外交チャンネルによるコミュニケーションが行われなかったら、対抗策は限定されたものになる。

その中で最も緊張激化を招くのは、侵入してきたUAVを撃墜することだ。

台湾政府は、中国のUAVが南シナ海上空の領空を侵犯すれば撃墜すると示唆しており、そのための演習も行っている。今後この方針が、中国UAVによるADIZ侵入に拡大されれば、緊張激化は免れない。

そこまで手荒ではない代替策もあるが、やはり大きな問題につながりかねない。中国UAVとの意図的な空中衝突という手段には、相手側の機体を破壊して事態を悪化させるリスクがある。中国の脅威に対抗する上で危険な前例を作る恐れもある。

妨害電波でUAVを無力化する策は、いくらか穏やかに思える。だが台湾にその技術力があるかどうかは不明だし、あったにせよ中国の航空機と直接対峙するという危険は残る。

以上3つの方法で問題なのは、いずれの場合にも事態を悪化させるような破壊行為や物理的介入を行うのが、中国ではなく台湾だという点だ。

これでは、中国が台湾を「侵略者」に仕立て上げることになりかねない。

台湾が取り得る最終手段は、国家安全保障の責務を放棄して中国の侵入を許すというものだ。だがこれには、より大きい政治的な闘いに敗れるリスクと、台湾に自衛の意思が欠けていると見なされるリスクが伴う。

これらのシナリオは、中国が台湾のADIZ侵入にUAVやUCAVを使用した場合に、台湾の政府と空軍が直面する外交、軍事、政治上の問題を示している。

だが中国が戦略上および地政学上の理由から、作戦に無人機を導入しようとする可能性は十分にある。台湾は早期に具体的な対応策を確立し、公表すべきだ。

これまで専門家は、中台間の直接衝突が起きる可能性は低いと考えてきた。

しかし国際政治学者のジョセフ・ナイが最近の論考で指摘したように、東アジアで差し迫った軍事衝突の恐れはないものの、「偶発的に軍事衝突が起きる」リスクはある。台湾海峡上空でのUAVの使用はそのリスクを大幅に引き上げ、緊張激化のスパイラルを招く可能性がある。

第1次大戦を引き起こしたのはドイツだけの責任ではなく、欧州各国の政治家たちがまるで夢遊病患者のように無自覚に戦争を誘発したという主張がある。

ナイは別の論考でこれを引き合いに出し、「対中夢遊病症候群」が衝突につながる恐れがあると強調した。

皮肉な話だが、夢遊病患者と特に自律型のUAVはよく似ている。どちらもコミュニケーションが取れず、強力な介入が必要になる。

そのような介入は、台湾と周辺地域の安全保障にとって悲惨な結果を招きかねない。

From thediplomat.com

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中