中国は「WTOの問題児」は嘘...はるかに身勝手なのがアメリカと示す「数字」
WTO CHANGES CHINA
WTO加盟で中国はそれなりに大人に(2001年の署名式典) REUTERS/AFLO
<2001年にWTOに加盟した中国は、その後も加盟国の責任を果たしていないと非難されることが多いが、そうした主張は正当なのかをデータで読み解く>
去る12月11日で中国のWTO(世界貿易機関)加盟から20年が経過した。しかし国際社会に祝賀ムードはなく、むしろ中国は加盟国の責任を果たしていないとか、世界貿易のルールを無視して自国の経済成長を追求しているとかの議論が蒸し返されている。言うまでもないが、この議論はWTO体制そのものの評価に直結する。
前米大統領ドナルド・トランプはWTO否定派の急先鋒で、その紛争解決システムを無能と切り捨て、ルール違反の貿易戦争を繰り広げた。現職のジョー・バイデンも、これまでのところWTOの強化や改革に前向きとは言えず、相変わらず中国のルール違反に対する非難を繰り返している。しかし、データの示すところは違う。身勝手な主張でWTOへの誤解と不信を増長させているのは米政府だ。
むろん、中国経済には今もさまざまな問題がある。例えば造船産業に関して、中国は累計5400億元(約860億ドル)もの補助金を政策的に投下してきた。結果、中国の造船業界は商船分野で世界最大になった。だが、この政策がどれほど経済成長に寄与したかを正確に見積もるには、その機会費用と造船産業のもたらす副次的利益を見比べる必要がある。
米コーネル大学のパンレ・バーウィックらの研究によれば、この15年間の補助金投入で造船産業には1000億元、船主には180億元の追加利益がもたらされた。だがこれだけでは補助金総額の半分にも満たない。副次的利益の総額は算定し難いが、多めに見積もっても1000億元くらいだ。そうであれば差し引きではむしろマイナスで、中国経済の成長を加速するどころか、足を引っ張ってきたことになる。
WTO加盟国が中国を提訴した件数
一方、今も中国経済には多様な規制が残っているが、国内の民間企業にとっても外国企業にとっても、多くの分野で参入障壁が低くなってきたのは事実。WTO加盟後の一連の開放政策が、中国の急速な経済成長を可能にしてきたと言える。
中国がWTOのルールを守っていないという議論も、その多くは誤解に基づいている。米トランプ政権は、中国が他の加盟国よりも頻繁にルール違反を繰り返していると主張し、あの国がルールに従わない以上、アメリカも対抗上、WTOのルールを無視した政策(懲罰的関税など)を取らざるを得ないと主張していた。
だが実際のところ、中国の行状は他の加盟国に比べて見劣りするほど悪くはない。WTO加盟国が中国を提訴した件数を見れば分かる。この20年間で、中国を相手取った提訴は47件(全体の約12%)。対してアメリカは同じ期間に2倍以上(全体の約28%)も提訴されている。