比ドゥテルテ、上院選出馬を撤回 来春の任期満了で政界引退の意向
ドゥテルテ政治の「継承か転換か」
これに対してライバル候補はドゥテルテ政権の各種政策、特に麻薬関連犯罪に対するいわゆる「超法規的殺人」の見直しなどを前面に出して政権交代を目指している。
野党「自由党」などで組織する連合体「イサンバヤン」の大統領候補者であるレニー・ロブレド副大統領、「PDPラバン」を脱退して大統領選に立候補している世界的なプロボクサーで国民的英雄でもあるマニー・パッキャオ氏、貧民街出身で元俳優というマニラ市のイスコ・モレノ市長らが立候補。「ドゥテルテ政治の転換」を訴えてボンボン・マルコス氏との対決姿勢を強めている。
ボンボン氏有利で政界引退決断か
大統領の再選が憲法で禁止されていることから、一時は副大統領としての出馬を検討していたドゥテルテ大統領だが、大統領に万が一の事態が発生した場合には副大統領が大統領に昇格することから、それが「大統領の再選禁止規定」に抵触するとの批判を受けて断念。
それでも後継政権に影響力や睨みを聞かせるために上院議員への立候補を届け出ていたが、今回それも諦めた。
こうした立候補に向けた動きは大統領としての任期終了後に「超法規的殺人」や反政府・反ドゥテルテを掲げるメディアへ弾圧を繰り返してきたことに対して訴追や非難を受けることを懸念しての策略だったとみられる。
しかしこれまでの状況から「ドゥテルテ政治の継承」を掲げているボンボン・マルコス氏が有利になっていることなどを考慮して政界引退の道を選択したようだ。
メディア対応では"反ドゥテルテ"を掲げてきたフィリピンのネットメディア「ラップラー」の創設者で記者であるマリア・レッサさんが今年のノーベル平和賞を受賞していることからも、ドゥテルテ大統領の強権的メディア対策に問題があることが改めて浮き彫りとなっている。
こうした状況も考慮したうえで、ドゥテルテ大統領はとりあえず「パンデミック対策への専念」「家族との時間を大切にしたい」(官房長官の声明)などを表向きの理由に政界引退を決めたようだ。
しかしフィリピン国民の間には年配者を中心に、マルコス元大統領が戒厳令を布告して反政府勢力を弾圧した暗黒時代への懸念が根強く残っている。
それがそのままボンボン・マルコス氏へ嫌悪感につながっているとされ、各種世論調査の結果では有利とはいえ、来年5月の大統領選で世論調査の人気通りの結果となるかどうかは未知数とも言われる。今後のフィリピン大統領選の行方から目が離せない状況が続く。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など