雇用「絶好調」のアメリカで経済悲観論が広がる理由
BIDEN’S BIGGEST PROBLEM
統計的に見ても、最近は物価の上昇率が賃金の上昇率を上回る。非農業部門の時給の伸びは4.9%で、CPIの上昇率を1%以上も下回る。
インフレ不安をあおる一部の報道が過剰にセンセーショナルで、誤解と偏見に基づく情報が流布されているのは事実だが、物価と賃金の上昇率に1%以上のギャップがあるのは大問題。
雇用の回復はジョー・バイデン大統領にとって追い風だったが、これからはインフレを止めることが最大の課題となる。
しかも、全体的な数字だけでは問題の本質が見えてこない。賃金と物価の上昇率ギャップという点で、最も深刻な打撃を被っているのは頼みの綱の中間層なのだ。
低賃金労働者にとって、今年は確かに最高の年だったかもしれない。
全国的な人手不足で小売店や飲食業者、ホテルなどが従業員確保に躍起になったから、労働者は好きな職場を選ぶことができたし、少しでも給料の高い職場が見つかれば迷わずに転職できた。
連邦準備制度(各国の中央銀行に相当)を構成するアトランタ連邦準備銀行によれば、下から25%の低所得層に限れば、時給の中央値は今年だけで約4.9%増となり、他の所得層よりも高く、従ってインフレによる打撃は相対的に小さいと言える。
ちなみに人口の50%を占める中所得層の賃金上昇率は4%に満たない。所得上位の25%では3%にも満たず、インフレ率を大きく下回る。
今回の急激な物価上昇を一時的なものと見なす根拠はたくさんある。新型コロナ対策で政府が莫大な公的資金をばらまいた結果であるとすれば、その影響が長く続くことはないとみていい。
実を言えば、FRB(連邦準備理事会)内部でもこうした見方が支配的だ。続投の決まったジェローム・パウエル議長は先に、こう述べている。
「現在の急激なインフレは(サプライチェーンの寸断などで)供給の減った局面と、非常に強い需要の高まりが重なった結果であり、その背景にはアメリカ経済の再開という動きがある。そうであれば、これには始まりがあって山を越え、やがて落ち着くプロセスだ」
中間選挙を左右する「一票」
しかし、どこが山で、いつになったら落ち着くのかは誰にも分からない。
少なくとも世論調査を見る限り、今のアメリカ人はこの物価上昇が路面の段差みたいなもので、乗り越えた先は経済正常化へ一直線だとは信じていない。むしろ牛乳などの値段が急激に上がり、車の買い替えにも苦労する状況に不平と不満を募らせている。
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