ドイツ、ワクチン接種をめぐる「市民戦争」 フェイクニュースはなぜ広まるのか
ワクチン接種義務付けに反対する人々 ドイツ・フランクフルト REUTERS/Kai Pfaffenbach
<今後の接種義務拡大の可能性に伴い懸念されるのが、コロナ政策反対派や陰謀論者の過激化だ。現在ドイツ各地で反対派による暴力事件が増え続けている......>
ドイツでは、12月10日、老人医療施設やクリニック、ホーム介護スタッフなどへのワクチン接種が義務付けられた。22年3月より有効となり、違反者には罰金が課される。一般のワクチン義務付けに関しては来年の連邦議会で審議される。
今回のような職務固有の接種義務付けには外来看護サービス協会などからも批判が出ているが、今後の接種義務拡大の可能性に伴い懸念されるのが、クエアデンカーと呼ばれる各種コロナ政策反対派や陰謀論者の過激化だ。現在ドイツ各地で反対派による暴力事件が増え続けている。「市民戦争」「南北戦争」勃発などと言われることもある(規制反対・ワクチン陰謀論者は南東部に多い)。
ドイツ各地に広がる暴力
現在ドイツで最悪の感染ホットスポットであり、反ワクチン主義者の多いザクセン州の一部では、コロナテストセンター従業員への脅迫が繰り返されたため、センターが閉鎖に追い込まれた。リベラルの多い他州でも、店員や乗務員、マスク不着用を注意した一般市民などがナイフで脅されたり、入院を要するほど殴られたり、また、ひき逃げ未遂まで起きている。9月には、マスク不着用を客に注意した男子学生店員が射殺された。
ベルリン近郊の小さな町ケーニヒス・ヴスターハウゼンでは先週、40歳の父親が妻と3人の子供(10歳、8歳、4歳)を射殺後に自殺するという痛ましい事件が起こった。警察は捜査中として詳細を公表していないが、父親はワクチンパスポート用QRコードの偽造犯だったとすでに大きく報道されている。父親は、これにより警察に親権を奪われるなどと思い込んでいたといわれ、過激派というより精神面に問題があったようだ。ただしこの父親も、学生射殺犯と同様、メッセージングアプリのTelegramのクエアデンカーのチャットグループに参加していたようだ。
過激派の温床となったTelegram
Facebook やTwitterなどと異なり、過激な内容でも削除されないTelegramは過激派の温床にもなっているといわれている。先述の学生射殺事件も、Telegram内では歓迎ムードだったという。今月初めにはザクセン州ミヒャエル・クレッチマー州首相に対する殺害計画が発見され、州警察が捜査中だ。
ロシア人起業家によりベルリンで設立されたTelegramは、現在本拠地をドバイに置く。ドイツで200万人以上のユーザーがおり、人種差別やテロ組織のリクルート、政治家・科学者・ジャーナリストなどの殺害呼びかけなどが頻繁に行われているようだ。ドイツ司法当局は今年の春ごろからアラブ首長国連邦の司法局に呼びかけ、ドイツ国内でのネット上の言論の安全を定めるNetzDG法の遵守を呼びかけているが、効果はあまり出ていない。ドイツでは未接種者がワクチンパスポートを有効化するための偽QRコードが大きな問題となっているが、偽コードが売買されたり、フェイクニュースが出回ったりするのもこのTelegramだ。
拡散されるフェイクニュース
ワクチン開発の立役者、ビオンテック社創始者のウグル・シャヒンが「実はワクチンを接種していない」というフェイクニュースも広く出回っているが、こちらはドイチェ・ヴェレが事実ではないことを検証し証明している。出回っているビデオは実在の映像から恣意的に切り取り組み合わせたもので、特に、シャヒンが55歳の時に受けたインタビューで、政府の指定する「優先・ハイリスクグループ」ではなかった彼がまだ「接種していない」と発言した部分だけが拡大解釈されて拡散されたようだ。実際にはシャヒンは数ヶ月前に接種を終え、現在はブースター接種も済んでいるという。
一方、大衆誌最大手のビルトは、「ロックダウンメーカー」として3人の科学者を実名顔写真付きで掲載し、各方面から批判を浴びている。現在の厳しい規制があたかも科学者たち個人によって作り出されたものであるとするような論調は極めて危険だ。コロナ禍で一躍注目を浴びるようになったクリステアン・ドロステンをはじめ、多くの科学者たちがパンデミック開始以来身体的・精神的脅迫を受けていると述べている。ベルリンのフンボルト大学および科学組織同盟は声明で同誌を強く批判している。