最新記事

韓国

韓国の「元独裁者」2人、国内での「評価」がここまで違うのはなぜか

Praise and Censure

2021年12月9日(木)21時38分
木村幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授)
全斗煥

退任後に内乱罪などで裁かれた全斗煥(中央) REUTERS

<双方とも弾圧と経済成長実現が共通する指導者だったのに、全斗煥は死去後も酷評され朴正煕は評価され続ける>

11月23日、韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領が死去した。享年90だった。

このほぼ1カ月前の10月26日には後任の大統領であった盧泰愚(ノ・テウ)も88歳で死去しており、度重なる80年代の元大統領の死去により、韓国では過去を振り返る論議が活発になっている。

そこにおける議論で印象的なのは、全斗煥への過酷とも思える反応である。例えば進歩派の代表紙であるハンギョレ新聞は、彼の死を「『虐殺者』全斗煥、反省なく死す」という表題で報じている。「元大統領」はもちろん、いかなる敬称も用いない異例の呼び捨ての報道だ。盧泰愚の死を「国家葬」で送ることを決めた大統領府は、全斗煥の葬儀には何の支援も行わないことを明確にした。韓国社会で大きな影響力を持つインターネット上では、その死を「祝う」書き込みが無数に並んでいる。

韓国社会の全斗煥の死に対する冷淡な反応の原因は、もちろん明確だ。1979年12月、朴正熙(パク・チョンヒ)暗殺後の混乱した状況で「粛軍クーデター」により軍の全権を握った全斗煥は、翌80年5月17日、再度のクーデターを行い、今度は政治的実権を掌握した。直後に発生した光州市民による民主化運動に対して行われた、軍の実戦部隊を投入した血なまぐさい弾圧は全斗煥と彼の政権に対する否定的なイメージの決定的な要因となった。

今も圧倒的な支持の朴

例えば、全斗煥が死去する直前の11月11日、韓国の世論調査会社であるリアルメーターが、歴代大統領の好感度を調査した結果を公表している。この調査における全斗煥の好感度はわずか1.1%。この数字は最下位の盧泰愚の0.4%に次ぐ低いものだから、79年から80年におけるクーデターや民主化運動弾圧に関わった2人に対する評価がいかに低いかが分かる。

この結果は、光州事件から41年を経た今日の韓国社会に民主主義的な価値が根付いた結果なのだろうか。この調査において2位と3位を占めたのは、共に進歩派に属する盧武鉉(ノムヒョン)と文在寅(ムン・ジェイン)。その数字はそれぞれ24.0%と12.6%になっている。これらの数字を見れば、確かにそう見えなくもない。

だが、この両者を抑えて32.2%と圧倒的なトップとなったのが朴正熙だ。言うまでもなく、全斗煥のそれに先立つ19年前の61年、やはり軍事クーデターにより政権の座に就いた人物である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ関税、英ではインフレよりデフレ効果=グリー

ワールド

ロシア中銀、金利21%に据え置き 貿易摩擦によるイ

ビジネス

米、日本などと「代替」案協議 10%関税の削減・撤

ワールド

トランプ氏側近特使がプーチン氏と会談、ロシア「米ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中