最新記事

北朝鮮

公用車も買えず、出国はトロッコで...北朝鮮で暮らす各国外交官のリアルな日常

The Life of Diplomats in North Korea

2021年12月10日(金)13時16分
コラム・リンチ(フォーリン・ポリシー誌外交問題担当)

211214P30_KIT_02.jpg

北朝鮮の金正恩総書記 KCNA-REUTERS

自力でトロッコを動かして出国

この国連の機密文書を読み込むと、一方にロシアと中国、もう一方に欧米諸国という対立の構図が見える。それぞれが北朝鮮制裁の長所と短所に関し、世界に向けてどのように説明するかという点で争っている。さらには、北朝鮮に駐在する約300人の外交官の暮らしぶりがうかがえる貴重な文書でもある。

外交官は北朝鮮の動きや核開発の実態について、ごく基本的な情報を集めるだけでも大変な障害にぶつかる。北朝鮮の大半の外交関係者や政府職員との交流は事実上禁止されており、平壌市外への移動は厳しく制限されている。当然ながら、核関連施設を訪れることは不可能だ。

人道援助の対象施設に出向くようなときも、北朝鮮の当局者が同行する。外交官は監視抜きで、援助活動家や一般市民に接することができない。

国連による制裁が始まったのは2006年、北朝鮮が初の核実験を行った直後のことだ。当初は北朝鮮が核・弾道ミサイル技術を取引することを未然に防ぐ目的だった。だがやがて北朝鮮が軍事力を増大させたため、制裁内容は燃料と木炭の取引制限、高級品の輸入禁止などへ拡大された。

今も国連本部では制裁が北朝鮮市民の生活に与える影響をめぐり、大国間で議論が繰り広げられている。新型コロナウイルスのパンデミックによって、平壌駐在の外交官の生活は一変した。大使館から出ることさえできなくなったため、多くの大使館職員が北朝鮮を去ることを決めた。

しかし国境封鎖と渡航制限のせいで、出国の手続きも面倒なものになった。今年2月に出国を目指したロシアの外交官一家は、鉄道とバスを乗り継いだ末に34時間かけて国境にたどり着いた。最後は自分たちの手でトロッコを動かして出国したという。

スヒーニンらロシアの外交官が10年前に平壌で味わった苦労は、ブラジルやエジプト、パキスタンといった国の関係者も経験していた。

北朝鮮のブラジル大使館が国連の専門家に宛てた書簡によると「朝鮮民主主義人民共和国のブラジル大使館は、ブラジル銀行(マイアミ支店)の口座から北朝鮮国内の銀行の口座に直接送金することができなかった」という。「送金は、北京にある中国の銀行を通じて行う必要がある。しかも送金元の銀行は、平壌の銀行から送金の承認を得るために、各送金の大まかな目的を伝えなくてはならない」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、米と欧州に溝 領土や「安全の保証

ビジネス

トヨタ創業家が豊田織に買収・非公開化を提案=BBG

ビジネス

円建てシフト継続、市場急変には柔軟対応=朝日生命・

ビジネス

スイス中銀、投資方針巡り環境団体が抗議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中