最新記事

サッカー

「時計の針を10年進めた」...本田圭佑がカンボジアで起こした「革命」と、現地の評判

2021年12月4日(土)13時13分
木崎伸也(スポーツライター)
本田圭佑

ANP SPORTS/GETTY IMAGES

<パス回しのパターンは4つだけ、「ミスをしたらガッツボーズを」。カンボジア代表の実質的な監督を務める本田圭佑が献身の先に見据える未来とは>

プノンペンで本田圭佑(35)と食事をしていると、現地の人がこう話し掛けるのをよく目にする。

「カンボジアを助けてくれて、本当にありがとう」

本田がサッカーカンボジア代表の実質的な監督(正式な肩書はゼネラルマネジャー)に就任したのは2018年8月のこと。FIFA(国際サッカー連盟)が定める指導者ライセンスを持っておらず、現役選手を続けながらの「二足のわらじ」のため当初は疑問視する声が上がった。

だが、本田は結果で批判を跳ね返した。19年にワールドカップ(W杯)2次予選で同国史上初めて勝ち点を挙げ、東南アジア競技大会(東南アジア版の五輪)では初めてベスト4に進出。カンボジアサッカー協会から高く評価され、今年3月、契約を23年まで延長した。

選手からの信頼も厚い。21歳のMFシン・カカダはこう感謝する。「ケイスケはものすごい情熱家で、僕たちに欧州トップの知識や経験を伝えてくれた。おかげでプロとは何かを知れた。何より、カンボジアの存在を他国に知らしめてくれたことがうれしい」

カンボジアは約20年にわたる内戦によって経済成長が遅れ、東南アジアの他国にコンプレックスを抱いている。そんななか、ACミランの元10番が来てくれたのだ。20歳のDFユエ・サフィも「ケイスケが僕たちの注目度を上げてくれた」と喜んでいる。

選手目線の指導を心掛ける

当然、カリスマ性だけで勝てるほど甘くない。選手の潜在能力を引き出すべく、本田は「選手目線」の指導を心掛けたと言う。「ダメな監督でありがちなのが、戦術を詰め込みすぎてしまうこと。それでは選手が混乱するだけ。物事を整理し、何をすべきかを絞って伝えるべきなんです」

例えば攻撃では、パス回しのパターンを4つしか教えない。練習ではそれらを身に付けることに集中する。すると短時間でも共通理解が生まれ、迷わずにプレーできるようになる。今年10月のU23(23歳以下)アジアカップ予選の香港戦では、まさにそのパターンから先制点が決まった。

また、本田は常々「ミスをしたらガッツポーズをしよう」と呼び掛けている。「よくミスをしたら怒鳴り散らす監督がいるんですが、マネジメントとして最悪。失敗しても次に生かせばいいんですよ。ミスできる雰囲気をつくることも監督の仕事の1つです」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領のクリミア固執発言、和平交渉の障害

ワールド

米中関税の相互的な引き下げ必要、進展に緊張緩和不可

ビジネス

米物価、全地区で上昇 経済活動は横ばい=地区連銀報

ビジネス

ユーロ圏インフレ、短期的には低下加速を予測=オラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中