女子テニス選手と張高麗元副総理との真相──習近平にとって深刻な理由
天津のテニスチームにも、2011年前後に張高麗の指示を受けて彭帥との連絡役を最初にした人がいたはずで、教え子はその周辺から話を漏れ聞いたものと推測される。
2018年に張高麗が再び連絡してきたときも、天津テニスセンターの劉先生を通してのことだったと彭帥は書いている。いつでも仲介をした周辺の関係者が少なからずいたはずだ。その人たちを鄭重に扱って好条件を出して「黙っていただく」。
11月21日に中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の編集長・胡錫進がツイッターで彭帥に関する動画を数本公開したが、その中の一つに食事場面があって、「明日は11月20日だから」と言ったのに対して「違うわよ、明日は11月21日でしょ?」と応じる「わざとらしい」会話がある。
このレストランは中南海からわずか1キロしか離れていない所にある。ということは、彭帥はいま自宅の天津にはいなくて、中南海の近くの「豪勢な一室」をあてがわれているのかもしれない。
いずれにせよ、彭帥が身体的には「無事」でいることは確かで、自分の将来を考えたときに、中国当局の説得を選んだ可能性は大きい。
張高麗は生涯、「自由になれない身」に置かれているが逮捕はできない。
逮捕などししたら、彭帥との関係が事実であるだけに、習近平の任命責任に関わり、政権を危うくさせる。もしこれが反習近平派の捏造ならば、事態は簡単だ。犯人を逮捕すれば済むことで、習近平には痛くも痒くもない。
告白はなぜこのタイミングだったのか?
なぜこのタイミングだったのかに関しては、繰り返しになるが、「張高麗が話し合いをドタキャンしたから」で、なぜドタキャンしたのかに関しては「張高麗の夫人が、これ以上会うな」と止めたからだと考えられる。
「夫人はなぜ止めたのか」に関しては、いくつかの理由が考えられる。
「もうこれ以上、夫の不倫を容認したくはない」という、ごく当たり前の女性心理が一つ。そして「これ以上逢引きを続けることによって、大恩ある習近平に迷惑をかけるようなことがあってはならない」と夫人が判断したことが考えられる。文字数が多くなりすぎて書ききれないが、彼女はそういう人だ。
しかし夫人は、一つだけ間違っていた。
それは彭帥が自由奔放な女性で、激情に任せて告白文を公開する可能性があることを見逃した点だ。それ故にこそ夫・張高麗は彭帥に惚れ込んでいたということを、同時に夫人は見落としていたと思う。
「中国の事情に詳しい専門家」は、デマに匹敵するような憶測を広げないよう慎まなければならないし、日本国民も騙されてはならない。
事態はそのようなデマよりも、もっと深刻なのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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