視覚障がい者の私がパラのボランティアで開いた共生社会への扉
共生社会を実現する一歩は共同作業にあり
工藤氏は今回のボランティア活動を通して、共生社会の実現のためにはコミュニケーションが欠かせないと実感したという。それに気づいたのは、健常者のボランティアの多くが、工藤氏が障がい者であることを高いハードルだと感じ、接し方などに悩んでいたと知ったからだ。
しかし、実際は目が見えないだけで、それを除けば健常者と何も変わらない、と工藤氏は言う。そこで、自分と触れ合った健常者のメンバーたちに、正しい誘導のやり方といった新しい知識や気づきを与えることを心がけた。それが、「障がい者は接しにくい」というイメージを変えるきっかけになったはずだ、という自負もある。
一方、障がい者は普段からサポートされる側にいるため、自分がボランティア活動に参加すると迷惑をかけると思い込んでいるケースが多いという。工藤氏が勤める学校の生徒たちの多くがそうした不安から消極的になりがちで、それはボランティア参加前の自分も同じだったと打ち明ける。
しかし、大会ボランティアの活動を終えた工藤氏は、健常者のボランティアから「工藤さんと一緒に活動できてとても有意義でした」「貴重な体験ができました」と声をかけられ、障がい者から健常者に与えるものがあることを実感できたそうだ。
一緒に活動することで互いに得るものがあるなら、共生社会の実現は簡単なのではないか──と肌で感じた工藤氏。今後の目標についてこう語る。「学校で生徒たちに自身の経験を伝えるとともに、ボランティア活動にも進んで参加して、障がい者の本当の姿を多くの人に見てもらう。そうすることで、障がい者と健常者をつなぐ懸け橋になりたいですね」
東京2020大会が刻んだ共生社会への確かな一歩。大会が遺したレガシーとして、次の時代を担う子どもたちへと受け継がれていくに違いない。
(取材・文/安倍季実子 写真提供/日本財団ボランティアサポートセンター)
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