最新記事

日本社会

視覚障がい者の私がパラのボランティアで開いた共生社会への扉

2021年11月24日(水)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載
東京五輪2020のボランティアメンバー

東京2020大会のボランティアを務めた工藤滋氏(中央)と仲間たち

<厳しい状況下での開催でありながら、いくつもの感動と記録を生んだ東京2020大会。この歴史的な大会は、障がいのある人もない人も分け隔てなく暮らせる共生社会の実現に向けた、大きな前進にもなった>

コロナ禍の大会を支えたボランティアたち

新型コロナウイルスの世界的流行という未曾有の事態のもとで開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。多くの熱戦が繰り広げられたその裏で、選手たちを支えたのは、19歳から91歳まで延べ7万6000人を超える大会ボランティアだった。

「多様性と調和」をビジョンのひとつに掲げた今大会では、障がいのある人も数多くボランティアとして参加した。筑波大学附属視覚特別支援学校で鍼灸手技療法科の教諭を務める工藤滋氏もその一人。

視覚に障がいのある工藤氏は、東京アクアティクスセンターで行われたパラ競泳でのボランティア活動にあたった。活動は主に3つ。レース開始を伝えるボードを掲げることと、座席や手すりの消毒作業、そして、競技後の選手たちの見送りだ。

そのうち、期間中に毎回行っていたのが「静かに/Quiet, Please」のボードを掲げる活動。選手は、雑音があるとスタートの音が聞こえにくかったり、集中力が散ったりすることがある。そのため、ボランティアがボードを頭上に掲げ、会場にいる関係者やスタッフに静かにするよう促すのだ。

tokyoupdates211124_3.jpg

「静かに/Quiet, Please」のボードを掲げる工藤氏(左)

TOKYO2020に参加したから出会えた友人たち

こうしたボランティア活動は、健常者を含む2~3名のチームに分かれて行われた。メンバーは毎回変わり、ほとんどの人が障がい者の誘導やサポートははじめてだったそうだが、すぐに慣れて丁寧に対応してくれたこともいい思い出だと、工藤氏は振り返る。

一番の思い出は、最終日にメンバーの女性から丸いシールをひとつひとつ貼り付けて作った点字のメッセージカードをもらったこと。彼女と同じチームになったのは1日だけだったが、その後、独学で点字を学び、「一緒に歩んできた仲間との出会いは宝物。ありがとう」という内容のメッセージを渡してくれたのだ。

「点字の細かいルールもきちんと守っていて、とても正確な文章でした。点字機を使って書いたメッセージをもらうことはあるけど、手作りのカードはほとんどありません。たった1日で点字のルールをマスターして心を込めて作ってくれたことが、すごくうれしかったです」

メンバーとは連絡先も交換し、近況報告をし合うことが今後の楽しみだと笑顔を見せる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防長官候補巡る警察報告書を公表、17年の性的暴

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ワールド

サハリン2はエネルギー安保上重要、供給確保支障ない

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中