最新記事

インド

祝祭で人々が沐浴するインド・ヤムナー川、有害物質の泡で覆われた

2021年11月15日(月)15時40分
青葉やまと

ニューデリーのガンジス川支流のヤムナー川は汚染物質の泡で覆われたが、そこで人々は沐浴する REUTERS/Anushree Fadnavis

<チャットプージャの祭典では、ニューデリー東部を流れるガンジス川最大の支流・ヤムナー川に人々が集ったが......>

インドの首都・ニューデリーで11月11日まで、太陽神を崇拝するチャットプージャの祭りが開催された。4日間の祝祭のうち、36時間は水も食べ物もいっさい口にしない断食期間となる。しかし、こうした厳しい定めよりもインド内外で話題となったのは、本来身を清めるべき聖なる川の深刻な水質汚染だった。

チャットプージャの祭典では、ニューデリー東部を流れるガンジス川最大の支流・ヤムナー川に人々が集う。一度に数百人が流域に集まり、川に浸かり沐浴をこなし、川から汲んだ聖水を各家庭へと持ち帰る。

祭りの期間、ヤムナー川へ臨んだ信者たちが目にしたのは、一面大量の泡で覆われた大河の姿だった。まるで雪塊が一面を覆い尽くしているようだが、実はすべて工業排水が泡立ったものだ。遠目にこそ純白に見えるものの、近づくとまるで都会の道路に溶け残った雪塊のように汚れていることがわかる。

インディペンデント紙はこの様子を、「インド女性たちがデリーの河川で祈りを捧げるため、有害な泡をかき分けて進むよう強いられている」と報じた。

ヤムナー川の汚染は周知の事実であり、沐浴にあたった人々も健康へのリスクは重々承知だ。チャットプージャの祭礼は、川で沐浴して太陽神に祈りを捧げ、聖なる水を持ち帰ることで幕を開ける。大切な儀式を行うためには、ほかに選択肢がないのが実情だ。

毎年繰り返す泡だらけの川面

インド首都では毎年、この時期に汚染がピークに達する。ヤムナー川が泡沫に覆われるのも恒例のことだ。11月前後のこの時期に水量が減少するため、川へ注ぎ込む排水による汚染度が相対的に上昇する。

工場からの排水は高所から叩きつけられるように流入することが多く、含まれる界面活性剤やリン酸塩などによって大量の泡が生成される。現地NPO職員はインディペンデント紙に対し、「少し見ただけでは汚いようには思えませんが、触れると危険が及ぶ可能性があります」と警告している。

チャットプージャは、インド北部の州に住むヒンドゥー教徒にとって大切な行事だ。今年も有害な泡に囲まれながら沐浴に勤しむ人々の写真が出回ると、政府の無策を糾弾する一般市民や環境問題の専門家らの声がメディアやSNSなどに飛び交った。

Mounds of toxic foam cover India's sacred Yamuna river


沐浴者のみならず、一般市民への健康被害も懸念されている。カタールのアルジャジーラは、「この川はニューデリーで使われる水の半分以上を供給しており、住民の健康に深刻な脅威をもたらしている」と報じている。汚染の影響を受け、ニューデリーの一部地域では給水が遮断された。

また、ただでさえ冬場は焼畑による大気汚染が発生し、ニューデリーの空がかすむほどになる。アルジャジーラは、「すでに世界で最も大気が汚染されているこの都市において、危険なまでに健康を害する河川は多くの人々の懸念材料だ」と述べ、健康被害を憂慮する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米加金利の乖離に限界あり=カナダ中銀総裁

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中