「白人で通じる黒人」の祖父を持ったレベッカ・ホールが見つけたもの
「PASSING -白い黒人-」今作で女優レベッカ・ホールは監督デビューした
<女優レベッカ・ホールが初監督、Netflixで全世界配信した映画で自分自身のアイデンティティに正面から立ち向かった>
イギリス生まれの女優レベッカ・ホールは、長いこと、世間の思う自分と真実のギャップに居心地の悪さを感じてきた。誰もが彼女を白人だと信じて疑わないが、彼女の中には、母方の祖父から引き継いだ黒人の血が流れているのである。
その祖父は、見た目が白人として通じることから、白人として生きてきた。そのことについては家族の中でも触れてはいけない秘密のように扱われ、ホールは自分自身のルーツやアイデンティティについて、ずっと煮え切らないものを感じていたという。
そんな彼女が、「PASSING-白い黒人-」で、その問題に正面から立ち向かった。11月10日にNetflixが全世界配信したこの映画は、ホールの監督デビュー作だ。
タイトルは、白人として「パスする」ということ
タイトルは、白人として「パスする」ということ。舞台は1920年代のニューヨーク。白人しか入れないところに時々訪れる黒人女性アイリーン(テッサ・トンプソン)は、ある日、そんな場所のひとつで昔の同級生クレア(ルース・ネッガ)に再会する。クレアは完全に白人と偽って生きており、人種差別者の夫すら真実を知らない。だが、アイリーンを通じて久々に黒人コミュニティに触れたクレアは、そこからどんどんアイリーンの生活に入り込んでくるようになり、アイリーンは複雑な思いを抱えるようになる。
ホールが原作小説に出会ったのは、10年前。自分を白人と決めつけてくる人たちに対して何か言いたい気分になっていたホールに、ある人が手渡してくれたのだ。「それでやっと謎が解けたのよ」と、ホールはその時を振り返る。
「この本には、歴史的な背景や感情のニュアンスがよく書かれている。だから祖父の置かれていた状況が把握できたの。読んでいて、『おじいちゃんもこうだったのね』としょっちゅう思ったわ。なぜこれが家族の恥のように扱われてきたのか、秘密にされてきたのかが、やっとわかった。でも、これは、人種だけについて語るものではない。そこを入り口にして、アイデンティティを自分で決めることはできるのかということを問いかけてくる。自分はこうだと自分で思っていても、社会は自分に別のものであれと言ってきたりする。その衝突は、国境を超えて多くの人が経験することではないかしら」。
読んでいるうちにこれを映画にしたいと思い始めたホールは、読み終えるとすぐに脚本を書き始め、10日で書き終えた。モノクロで撮るというのも、この時から決めていたことだ。しばらく引き出しにしまわれたままになっていたこの脚本をようやく本格的に売り込み始めると、予想していた通り、多くの困難にぶつかることになった。そもそも、今のアメリカで、たいして儲からない大人向けのシリアスな映画は、なかなか作られにくくなっている。しかもホールには監督としての実績がないし、モノクロで撮影したいと言うのだから、簡単なはずはない。