最新記事

クジラ

クジラは森林並みに大量の炭素を「除去」していた──米調査

Whales Removed an Abundance of Carbon From Earth

2021年11月5日(金)17時14分
ハナ・オズボーン
ザトウクジラ

ザトウクジラ Gerald Corsi-iStock

<米スタンフォード大学の研究によれば、クジラの生息数を商業捕鯨が始まる以前の水準に回復させれば、地球全体の環境を改善できるという>

商業捕鯨が始まる以前、シロナガスクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラなどの巨大なヒゲクジラ類は、全大陸の森林生態系と同等の炭素を環境から除去していたことが科学者によって明らかにされた。ヒゲクジラ類の個体数を商業捕鯨以前のレベルまで回復させることは、気候変動対策にもつながるはずだと研究チームは述べている。

米スタンフォード大学の海洋生態学者マシュー・サボカは、これらの巨大な哺乳類が実際にどれくらいの量を摂食しているかを調べた論文の筆頭著者だ。これまで、ヒゲクジラ類の摂食量の推定は、わずか数回の測定に基づいて出されたものがほとんどだった。

そこで研究チームは、大西洋や太平洋、南極海に生息する体長約9~30メートルのクジラ321頭にタグを付け、そのデータを調べることにした。

このタグはクジラの動きを追跡できるもので、それぞれのクジラがどれくらいの頻度で摂食しているかを特定できた。また、研究チームはドローンで撮影した写真から、クジラの体長を計算し、一口ごとにろ過している水の量を見積もった。さらに、研究者たちは餌場を訪れ、一度の食事で摂取されるオキアミなどの餌の密度を確認した。

『ネイチャー』誌に発表された研究結果は、驚きに満ちていた。巨大なヒゲクジラ類は、これまで推定されていた量の3倍も食べていたことが明らかになったのだ。北太平洋に生息するシロナガスクジラの成体は、夏の摂餌期には1日当たり16トンものオキアミを食べるというのだ。ホッキョククジラも、1日当たり6トンの動物プランクトンを食べていた。

研究に参加した米国立自然史博物館のニコラス・ピエンソンは本誌に対し、「想像を絶する摂食量だ」と語った。「世界の年間漁獲量の約2倍、南極海に現存するオキアミの2倍という量だ。私たちの研究結果は、最も大きなクジラたちについて推測されていながら、いまだ入念に定量化されていなかった事実も明らかにした。彼らが生態系エンジニアとして果たしている役割の大きさだ」

クジラがどれくらい食べているかを知ることは、クジラが地球に存在することが、炭素除去や海の健康にどれくらい貢献するかを理解する鍵となる。

海中に吸収される炭素が減る

20世紀の商業捕鯨では、最大300万頭のクジラが命を奪われた。巨大なクジラがこれほど大量に海から排除されたことは、生態系に多大な影響をもたらした。クジラの排せつ物は、海の食物連鎖にとって重要な栄養源だった。

(オキアミに由来する)鉄などの重要な栄養素が海面に供給されることで、植物プランクトンのブルームが発生。これが、スポンジのように炭素を吸収してくれる。クジラが減ると、ブルームも減り、除去される炭素の量も減るという訳だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは143円前半で上値重い、米関税の警

ビジネス

村田製作所、米で5000万ドル規模のベンチャーキャ

ワールド

NZと米のパートナーシップはなお重要、外相がハワイ

ワールド

中国高官、米関税を批判 「香港の生活奪う」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中