ハロワの窓口にいるのは非正規公務員──コロナ禍の女性たち
だが残念なことに、人はそこまで思いを巡らさないものでもある。
ハローワークに訪れる人の中にはコロナで仕事を失った人も少なくない。
「先が見えないいらだちや憤りで、窓口に来られる人は殺気立ってさえいました。私自身も来年の仕事の保証がない非正規なので、その気持ちが痛いほどわかります。でも求職者から見れば、私たちは皆、"安定した公務員"。不満のはけ口にされ、暴言を浴びせられることも頻繁にあります」(140ページより)
なかには人権侵害レベルのことを言われ、心が折れて職場を去っていく人も少なくないという。
なお、同じくコロナ禍で業務が増えた非正規公務員のひとつが婦人相談員だ。ステイホームの影響で増加したDVなどの相談を受ける立場である。
相談が電話やSNSだけで完結することはほとんどないため、相談者に会い、安全に配慮しながら具体的な支援につなぐ婦人相談員が必要になるのである。だがコロナ禍で増える相談に対し、シェルターなどの受け皿も相談員も足りず、現場は逼迫している。
彩子さん(60歳)は都内のある自治体の生活福祉課で週4日、非正規で働く婦人相談員だ。コロナ禍で仕事は倍増しており、日中はDV被害者の裁判所への同行支援などで忙殺され、直接窓口を訪れた人への対応にまで手がまわらないことも少なくない。(中略)
彩子さんは婦人相談員になった7年前から、非正規職として1年ごとの契約を繰り返してきた。週4日では厳しいため、兼業届を出し、週1日の休務日には、別の自治体で夜間電話相談員の時給アルバイトをして一人暮らしの生活を成り立たせている。全国の婦人相談員の大半は非常勤のため、彩子さんのように仕事をかけもちしている人も多い。(144~145ページより)
相談してくる人々は10代から80代後半までさまざま。相談もDV、虐待、生活困窮など多岐にわたる。
休務日に来所した女性が相談を受けられず、「もういいです」と離れていったときなどには強い無力感を覚えるというが、アルバイトとかけ持ちの非常勤では対処しきれない部分があっても当然だろう。
こうして追い詰められた女性たちをクローズアップすると、「つらいのは女性だけじゃない!」と憤りを感じる人がいるかもしれない。確かに、エッセンシャルワーカーの全てが女性だというわけではない。だがその一方、"女性だから"甘んじなければならないことと戦いながら懸命に生きている女性たちがいることも事実。
だからこそ責め立てるのではなく、「(自分が大変であるのと同じように)あの女性たちも大変なんだな」という視点に立つことこそが必要ではないだろうか。
でないと私たちは、コロナのせいで心まで失ってしまうことになる。
『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち
――深まる孤立と貧困』
飯島裕子 著
光文社新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。