映画『アメリカン・スナイパー』のネイビー・シールズ狙撃手と上官の、「殺害」プレッシャーの局面
EXTREME OWNERSHIP
感情でなく理性で判断する
「今、また見えました」とクリスが言った。ほんの一瞬だったが、窓のカーテンの後ろから、誰かの黒い影がさっと外をのぞいたという。
確認できたのは、男の影とスコープ付き武器のかすかな輪郭だけ。その後、まるで幽霊のように、男は暗い部屋の中に消えた。カーテンはしっかりと閉められ、部屋の中は全く見えない。PIDはできなかった。
私はもう一度、無線でウォリアーの中隊長に呼び掛けた。
「再びスコープ付き武器を持つ人物を目撃した。同じ場所でだ」
「了解」と中隊長は答え、「男を仕留めよ」といら立った声で言った。明らかに、こう思っているのが分かる。
「シールズの連中は、一体何を待ってるんだ? 敵の狙撃手は隊員にとっての脅威だ。俺たちが殺される前に、そいつを殺せよ!」
そのとき、ふとテキサスで過ごした少年時代に父から教わった、「銃器の取り扱い」の基本ルールを思い出した。「標的とその背後にあるものを確認せよ」。これが迷いをさっと吹き飛ばしてくれた。
いちかばちかで撃つことはできない。どれほどプレッシャーをかけられても、リスクを取ることはできない。
「駄目だ」と、ウォリアーの中隊長に返事をした。
「このエリアには味方部隊が多過ぎるし、PIDができない。兵士を何名か送って、あの建物の安全を再度確保することをおすすめする」
「男を撃て」。中隊長は改めてそう言った。「そいつを殺せ」と、さらに力を込めて言う。
「駄目だ」と私は厳しく言った。「気が進まない」。どんなにプレッシャーをかけられても、撤回するつもりはなかった。中隊長の忍耐も切れかけていた。
ジョッコは常に、「意思決定は、積極果敢に」とアドバイスしている。だが、果敢に決断するときに、理解していなくてはならないことがある。
それは、影響は大きくても即座に覆したり修正したりできる決断もあるが、人間を撃つような、取り返しのつかない決断もあるということ。いま撃たずに待っても後で方向転換できるが、引き金を引いて正体不明の標的を撃つ決断は、最終決定にほかならない。
それを頭に置いて、私は踏ん張った。「攻撃できない」と、無線で中隊長に告げた。「あの建物を掃討することをおすすめする」
無線は、ほんの一瞬静かになった。中隊長が、いら立って黙り込んでいるのが分かる。そして渋々、小隊指揮官に「もう一度あの建物を掃討せよ」と命じた。
無線の声から、小隊指揮官が激怒しているのが伝わってきた。だが彼は、危険に対処しなくてはならないことも承知している。分隊に、今いる場所を出て、建物127を再び掃討し、不審な「スコープ付き武器を持つ男」を捜索するよう命じた。
「君たちの動きをカバーする」と、私は中隊長に伝えた。
「うちの隊員が外にいる間に、少しでも動きを見せたら、そのクソ野郎を撃て」と中隊長が言った。