映画『アメリカン・スナイパー』のネイビー・シールズ狙撃手と上官の、「殺害」プレッシャーの局面
EXTREME OWNERSHIP
「PIDできるか?」と私は聞いた。
「一瞬、スコープ付き武器を持つ男の影が見えただけです」とクリスが言う。
「そのあと窓から一歩下がって、カーテンの後ろに消えました」
「了解」と私。「どの建物だ? もう一度言ってくれ」
そう言って、区域の建物一つ一つに番号を振った戦闘地図をチェックした。
米陸軍旅団任務部隊の作戦に参加する全員――ここには、米軍と海兵隊の5~6の大隊に所属する、数千名の兵士と海兵隊員が含まれている――が、同じ戦闘地図を見て活動していた。これはとても重要なことだ。
とはいえ、地図上の番号や道路の名称と、現場で目の前にあるものとを合致させるのは、相当難しい。現場には道路標識もなければ、番地もない。ここはラマディなのだ。
徒歩の米兵とМ1A2エイブラムス主力戦闘戦車とМ2ブラッドレー戦闘車から成る巨大な陸軍に先駆けて、シールズ小隊は早朝の闇の中を徒歩でパトロールしながら現地入りしていた。
狙撃手援護陣地を設けた2階建ての建物は、米陸軍大隊が最新の戦闘前哨を建設する予定の場所から、通りを数百メートルほど下ったところにあった。またしても、敵地のど真ん中に侵入したのだ。
既に日は昇り、何百名もの米兵が到着して、周辺の建物を一掃していた。クリスをはじめシールズ狙撃手たちは、攻撃をもくろむ敵の戦闘員を既に数名殺害している。ラマディ中南部の、よくある一日の始まりだ。
私は戦闘を終えるたびに、新たなCOP(戦闘前哨)を担当する米陸軍中隊に状況報告をしていた。そう、任務部隊バンディットに配属された、第36歩兵連隊・第1大隊のチーム・ウォリアーに。
私はクリスの隣にしゃがみ込んで身を低くし、頭を吹っ飛ばされないよう注意していた。クリスは狙撃ライフルを構え、高性能スコープを通して、先ほど男の影を見た窓を注意深く観察している。
「まだ見えるか?」と私。まだそこに標的が見えるか、という意味だ。
「いいえ」。クリスが、ライフルのスコープから目を離さずに答えた。
私は無線――中隊の通信ネットワーク――で、チーム・ウォリアーの中隊長に呼び掛けた。彼は尊敬を集めるリーダーで、素晴らしい兵士だ。私もここ数カ月、共に任務を果たすうちに、高く評価するようになった。
「建物127の2階に、スコープ付き武器を持つ男がいるのを見た。その建物に隊員がいないと確認できるか?」
「いませんね」と中隊長は(無線で)私の問いに答えた。
「その建物に隊員はいない」。彼の部隊の兵士たちがそのエリアを掃討したのは、1時間ほど前のことだ。
「攻撃してくれ」と中隊長は言った。彼の部下の小隊指揮官が、建物127に隊員はいない、と確認したのだから、クリスが見た男は武装勢力の狙撃手に違いない。
だが、クリスは明らかに状況を疑問視している。もちろん、私も同じだ。
この近辺には多くの味方部隊がいる。ウォリアーの兵士たちが、クリスが男を見たわずか1ブロック向こうにいるのだ。クリスは問題の窓をスナイパー・スコープを通してじっと見つめ、辛抱強く待っている。状況をきちんと把握しており、私の指示を必要としていない。