習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視
ところが、この「寄付金控除制度」というのは、西側諸国から来た概念で、どうも社会主義国家にあまりなじまない。したがって税法はあるが運用はあまりされていないという状況にあった。
そこで習近平は2013年に国家主席になるとすぐ「所得分配制度の改革深化に関する意見」を発表し、所得分配に「慈善活動」を正式に盛り込んだ。
2016 年に『慈善法』を制定し、2019年10月に開催された第19回党大会四中全会で、慈善事業を「第三次分配」へと正式に引き上げ、2020年10月の第19回党大会五中全会で決議された第14回五ヵ年計画の中に「共同富裕」を国家目標として推進し、第三次分配の役割と慈善事業の発展、所得と富の分配構造を明確にした。
習近平が今年8月17日に言ったところの第三次分配は8年間にわたる検討の末に出てきた結果である。
この時期がたまたま、アリババやテンセントなどが小売業の中小企業を潰してしまうほど一人勝ちしていたので、独占禁止法を適用して罰を与えた時期と一致していたため、第三次分配は「中国の民間企業を虐める習近平の独裁」として日本で位置付けられた。
しかし実際は「いかにして中間層を分厚くするか」という、岸田首相の「分配重視」と目標は同じである。
日本に野党はいるのだけれど
ただ中国の場合は一党独裁なので長期的戦略が立てやすいのに対して、日本は民主主義国家だから、国民の支持率が低くなると与党内で内閣が変わり、また総選挙となれば野党が政権を取る可能性も出てくる。
「分配」をめぐって、「それは立憲民主党が4年前から主張していたことだ」と枝野党首は声を張り上げている。
自民党は実は媚中から反中、あるいは右から左まで思想性も政策も異なる議員を幅広く擁している。これが一つの政党なのかというほど意見が異なるのを自民党の総裁選で国民は知ったと思う。特に河野太郎氏など、別の党派を立ち上げればいいのではないかと思ったほどだ。
それに対して野党は、少しの意見の違いだけで細かく分かれ、「われこそがお山の大将」と野心を燃やしているから「一強多弱」の構図が出来上がってしまった。
最近は野党が連携して自公与党を倒すという傾向が地方における選挙で現れ始めているが、二大政党で動かない限り、自民党自身も劣化していくだけだろう。
せっかく民主主義国家なのだから、衆議院選挙に期待したい。
なおジャーナリストの木村太郎氏が<習近平氏が鄧小平氏の「先富論」を否定...「共同富裕」で進む"文化大革命2.0">という論評の中で、拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で書いた視点を引用してくださっており、そのことには心から感謝したい。ただ、習近平は「先富論」を否定するというより、鄧小平がやり残し中国に多大な災禍をもたらした貧富の格差に関して、「先富論」の後半部分を遂行しようとしていることを、最後に付け加えておきたい。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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