習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視
所信表明演説を行った岸田首相(10月8日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS
習近平国家主席は鄧小平が唱えた先富論の後半である「共同富裕」に力を入れ「先富者からの第三次分配」を推進しているが、岸田首相の「分配」重視政策が何やら社会主義的なので、比較しながら考察したい。
岸田首相の「成長と分配」
岸田首相の所信表明演説を聞いていて、「あれ?これって社会主義国家の国家戦略?」という違和感と、習近平が盛んに言っている「共同富裕」と「分配」に関する既視感を覚えた。
岸田首相は「成長と分配」を唱えてはいるものの、「分配によって中間層を増加させる」方に重きが置かれ、これは習近平の「共同富裕における第三次分配によって中間層を増やす」と類似している。
アメリカでも中国でも、グローバル経済を基本とする資本主義によって、貧富の格差が広がっているのは確かで、これは世界的な現象だ。したがって貧困層に富を分配して中間層を分厚くしていくのは、もちろん非常に結構なことではある。
しかし、その財源をどうするのかに関して、岸田首相は4日の就任記者会見で「金融所得課税の引き上げ」を、その一つとして唱えている。
9月22日のコラム<中国恒大・債務危機の着地点――背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>に書いたように、中国では「不動産を持っているのは一部の富裕層ではなく主として中間層だ。
日本でも株に投資するのは、決して「一部の富裕層」ではなく、2020年11月17日の<投資をしている人が4割突破 反面、老後2000万円問題の功罪も>にあるように、麻生(元)財務大臣が「老後には2000万円必要だ」と言ったことも背中を押して、日本の個人投資家が激増した。銀行に貯金しても利子がつかないどころかマイナスになるという話も出たりして、筆者の周りでも株に手を出す人が増えている。
2021年7月15日の株主レーダーでは個人投資家が5981万人に達したと報じている(日経新聞<個人投資家最多の5981万人 企業、知名度生かし取り込む>)。
すなわち、金融所得課税引き上げは、決して「大富豪からお金をむしり取って貧困層に渡して中間層を増やしていく」ことにはつながらない。
2020年10月21日の日本証券業協会による『個人投資家の証券投資に関する意識調査』によれば、個人投資家の平均年収は「300万円未満」が45.1%で、「500万円未満」が69.8%とのこと。全体の平均年収は423万円。決して裕福なわけではない「中間層」だ。
ということは、金融所得増税は中間層にダメージを与えることになる。
そのためか、岸田内閣発足により株価が急落し、内閣支持率も稀に見るほど低かった。