最新記事

中国

習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視

2021年10月12日(火)13時38分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

もっとも、このコラムを書いている最中に、岸田首相が突如前言を翻し、「金融所得課税の引き上げは、当面しない」と言い始めたらしい(<岸田首相「金融所得課税は当面触れない」 総裁選での発言から後退>)。

「人の話(他人から受ける評価)に左右されて政策をコロコロ変えるような首相」など信じていいはずがない。

総裁選挙期間中も、「森友学園問題に関してさらに調査する」的な発言をしたのに、安倍元首相の逆鱗に触れたようだというのを知ると、突然「政府として説明が必要なら説明する」と前言を翻して、急遽、後退した。

さらに昨日11日の党首討論では「新しい資本主義」の柱を成しているはずの格差是正に対してさえブレ始めている(<岸田政権 薄まる格差是正 野党、首相の「ブレ」批判 衆院代表質問は>

いつまでも原稿を終えることが出来ず支障をきたすほどだ。

習近平の「共同富裕」戦略

さて、では当の社会主義国家、中国における「中間層を増やす手段」を見てみよう。

中国では1970年代末から改革開放が始まったが、人民は「また騙されて投獄される」と恐れて、思うようには進まなかった。そこで鄧小平は「先に富める者から先に富め。富んだ者は、まだ富んでない者を助けて率い、ともに豊かになれ」という「先富(せんぷ)論」を唱えたため、人民はようやく少しずつ金儲けをし始めた。

ところが北京に権力基盤がない江沢民政権になると、「金によるネットワーク」で権力の構図を築いたために腐敗が蔓延し、貧富の格差が激しくなっていった。

胡錦涛政権時代には「未富先老(まだ豊かになってないのに、先に老いてしまった)」という言葉が流行ったように、「権力と金」による底なしの腐敗が貧富の格差をさらに激化させていった。

そこで習近平政権では、反腐敗運動とともに、鄧小平がやり残した「先富論の後半部分」であるところの「共同富裕」に力を入れ、何としても建党100周年までに貧困層を無くしたいとして2020年11月の時点で500万人にまで減らすことに成功している。政権発足時の貧困人口は約1億人(9,899万人)だった。

習近平は、今年8月17日に開催した、自らが主任を務める中央財経委員会第十次会議で、「質的にハイレベルの発展を遂げる中で、共同富裕を促進せよ」と指示している。

「質的にハイレベルの発展」とは何を指しているかというと、ハイテク国家戦略「中国製造2025」に象徴されるような、ハイテクを中心として研究開発やイノベーションを重視する戦略を意味する。量的なGDP成長を目指すのではなく、質的に高い内容の成長を目指すのでGDPの量的成長はしばらく抑制されるが、将来大きな発展が見込まれるポテンシャルの高い質的成長を目指すという意味だ。それを新常態(ニューノーマル)と称する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中