最新記事

中国

習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視

2021年10月12日(火)13時38分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
岸田首相

所信表明演説を行った岸田首相(10月8日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

習近平国家主席は鄧小平が唱えた先富論の後半である「共同富裕」に力を入れ「先富者からの第三次分配」を推進しているが、岸田首相の「分配」重視政策が何やら社会主義的なので、比較しながら考察したい。

岸田首相の「成長と分配」

岸田首相の所信表明演説を聞いていて、「あれ?これって社会主義国家の国家戦略?」という違和感と、習近平が盛んに言っている「共同富裕」と「分配」に関する既視感を覚えた。

岸田首相は「成長と分配」を唱えてはいるものの、「分配によって中間層を増加させる」方に重きが置かれ、これは習近平の「共同富裕における第三次分配によって中間層を増やす」と類似している。

アメリカでも中国でも、グローバル経済を基本とする資本主義によって、貧富の格差が広がっているのは確かで、これは世界的な現象だ。したがって貧困層に富を分配して中間層を分厚くしていくのは、もちろん非常に結構なことではある。

しかし、その財源をどうするのかに関して、岸田首相は4日の就任記者会見で「金融所得課税の引き上げ」を、その一つとして唱えている。

9月22日のコラム<中国恒大・債務危機の着地点――背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>に書いたように、中国では「不動産を持っているのは一部の富裕層ではなく主として中間層だ。

日本でも株に投資するのは、決して「一部の富裕層」ではなく、2020年11月17日の<投資をしている人が4割突破 反面、老後2000万円問題の功罪も>にあるように、麻生(元)財務大臣が「老後には2000万円必要だ」と言ったことも背中を押して、日本の個人投資家が激増した。銀行に貯金しても利子がつかないどころかマイナスになるという話も出たりして、筆者の周りでも株に手を出す人が増えている。

2021年7月15日の株主レーダーでは個人投資家が5981万人に達したと報じている(日経新聞<個人投資家最多の5981万人 企業、知名度生かし取り込む>)。

すなわち、金融所得課税引き上げは、決して「大富豪からお金をむしり取って貧困層に渡して中間層を増やしていく」ことにはつながらない。

2020年10月21日の日本証券業協会による『個人投資家の証券投資に関する意識調査』によれば、個人投資家の平均年収は「300万円未満」が45.1%で、「500万円未満」が69.8%とのこと。全体の平均年収は423万円。決して裕福なわけではない「中間層」だ。

ということは、金融所得増税は中間層にダメージを与えることになる。

そのためか、岸田内閣発足により株価が急落し、内閣支持率も稀に見るほど低かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中