最新記事

中国

習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視

2021年10月12日(火)13時38分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そのためには人材の育成が最も重要なので、今年9月27日から28日、習近平は北京で「中央人材工作会議」を開催した

これは2010年の胡錦涛時代に国務院が開催した「全国人材工作会議」を中共中央に移して引き揚げた最高レベルの人材開発会議だ。

習近平は2016年2月、「人材育成制度・機構の改革」に関する初の包括的な文書「人材育成制度・機構の改革の深化に関する意見」を発表したが、9月27日の中央人材工作会議はその流れの一環である。つまりハイレベル人材を充実させイノベーションを促進するという流れの中での「共同富裕」だ

今年8月17日に開催した中央財経委員会第十次会議で習近平は、「共同富裕」に関して以下のように述べている。

●富裕は少数の者の富裕であってはならず、かといって誰もが一律に同じ収入になるという平均主義的なものであってもならず、段階的に共同富裕を促進していかなればならない。

●かつて一部分の者が先に富むことを許したが、それは先に富んだ者がまだ富んでない者を必ず率いて助け、ともに富んでいかなければならない。

●効率性と公平性の関係を正しく処理し、第一次分配、再分配、第三次分配が協調的かつ補完的に行われる基本的な制度配置を構築し、課税、社会保障など、中間所得層の割合を拡大し、低所得層の所得を増加させ、高所得を合理的に規制し、不法収入を取り締まらなければならない。(引用ここまで)

ここで言う第一次分配と再分配および第三次分配は、中国共産党新聞網や、中共中央紀律検査委員会のウェブサイトなどに詳細に書いてあるが、あまりに詳細すぎてわかりにくいので、大雑把に言うと

第一次分配:市場を通じた企業、組織や個人(給料など)への分配。

第二次分配:政府が税制や社会保障制度などにより徴収した資源を再度国民や企業などに還元する再分配。

第三次分配:(先富者である)企業や個人が自ら志願して慈善活動や寄付などを行う分配。

などと分けられている。

第三次分配とは

ここで最も大きな問題となるのは「第三次分配」で、これは「中間層を増やすための手段」である。そういう関係があるので、岸田首相が「中間層を増やすための手段」の一つとして「金融所得増税」を挙げたことに興味を持った。

日本で「金融所得課税」が問題になったように、日本では逆に、習近平の「第三次分配」を「民間企業虐め」として位置づけ問題視する傾向にあるようだ。

そこで、「第三次分配とは何か」を少し考察してみたい。

中国には「中華人民共和国企業所得税法」「中華人民共和国個人所得税法」があって、一応それぞれに「寄付金控除制度」がある。これは「富裕層が貧困や教育などの慈善事業をした場合には税の優遇策がある」ことを謳ったもので、言うなら第三次分配に近い概念だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大使館、取引先にDEI禁止順守を指示 スペインな

ワールド

トランプ米政権、ハーバード大への助成・契約90億ド

ワールド

アルゼンチン貧困率、24年下半期は38.1%に急低

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 米関税の影響懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中