「妥協の産物」岸田文雄が長期政権を築く可能性
Picking the Safe Option
一方、外に目を転じれば、隣の大国・中国を震源とする大変動が世界を揺るがしている。日本もこの大きな変化に対応しなければならない。
これまで日本は安全保障上の懸念と経済的な利益を切り離し、中国と「協調的」な関係を維持しようと努めてきた。新疆ウイグル自治区と香港の住民に対する弾圧や台湾に対する高圧的な姿勢を口先では非難しても、具体的な行動に出ることはなかった。
アメリカとの緊密な同盟関係を維持しつつも、新疆綿の輸入禁止など米政府が取った厳しい対中措置には、日本政府は追随しなかった。
中国の権威主義を懸念
自民党内のより現実的な一派は今も対中協調路線を支持している。無理もない。中国は日本企業の最大のお得意様だ(2021年上半期は対中輸出が輸出総額の約22%を占めた)。
それでも総裁選の論戦では、中国の動きに対する警戒の高まりが前面に出た。中国の動きをにらんだ安全保障政策では、日本は安倍政権下で「自由で開かれたインド太平洋」を提唱し、アメリカ、オーストラリア、インドと共に新たな協力の枠組みであるクアッドを発足させた経緯がある。
総裁選に向けた討論会で中国問題を取り上げたのは2人の女性候補の1人、高市早苗前総務相だ。右派の泡沫候補とみられていた高市が中国の神経を逆なでし、日本の財界を震撼させるセンシティブな問題をテーマに論陣を張った。
高市はA級戦犯が合祀されている靖国神社への参拝を続けており、首相になっても参拝すると明言。さらに、日本が戦前と戦中にアジア諸国に行った行為については過去に政府が出した公式の謝罪に代わる新たな声明を出すべきだとも主張した。
より現実的な提案として、高市は4候補の中でただ1人、対中抑止のために米軍が検討している日本への中距離ミサイルの配備も「積極的にお願いしたい」と述べた。世論調査では中国に好意的な日本人はわずか9%にすぎないから、これはポピュリスト的な政策と言える。高市の影響で、他の3候補も右寄りに傾いた。
岸田はブルームバーグのインタビューで「中国は現在の国際社会で大きな存在となった」と認めつつ、「その権威主義的な姿勢にはさまざまな懸念も感じる」と述べている。
日本の防衛費には、年間GDPの1%以内という非公式だが長年の目安がある。これについて岸田と河野は、1%という数字にこだわらないと述べた。
この姿勢は、NATOがGDP比2%以上の国防費拡充を求めていることや(高市は2%を目指すと語った)、アメリカの3.7%には及ばないが、表向きは自衛のみを目的とし、それでも世界第9位の軍事予算を持つ軍隊として重要な意味がある。