最新記事

日本政治

「妥協の産物」岸田文雄が長期政権を築く可能性

Picking the Safe Option

2021年10月4日(月)17時30分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)
岸田文雄

「妥協の産物」で圧勝した岸田だが今秋と来年の国政選挙で有権者の審判を受ける(写真は9月29日、東京) Issei Kato-REUTERS

<今回の総裁選では、自民党内の右派が存在感を示した。権力基盤を持たずスター性もない岸田だが、経済政策、対中政策はどう変わるか。短命政権を回避する方法はあるのか>

9月29日に行われた総裁選で自民党はまたもや無難な路線を選び、党のリーダー、ひいては日本の新しい首相に「妥協の産物」を据えた。

ただし今回の総裁選では党内右派の存在感が際立った。今後は右派が対中政策を引っ張り、より強硬な姿勢を打ち出す可能性がある。

4候補が自民党議員の382票と全国の党員・党友110万人超の票(集計後にドント方式で382票分が各候補に割り振られる)を争い、メディアの注目を集めた今回の総裁選。結果は安倍政権下で外相を務めた岸田文雄前政務調査会長の圧勝に終わった。

決選投票では、岸田が議員票の3分の2近くを獲得した。外相と防衛相のポストを経て新型コロナウイルスのワクチン接種の旗振り役も務めた河野太郎は、親しみやすいイメージを強みにSNSをフル活用して党員の支持をつかんだものの、勝利には届かず257対170票の大差で苦杯を喫した。

これにより10月4日の臨時国会で岸田が新首相に就任することになる。

首相が交代しても政策上の大きな変化はほとんどないのが日本政治の常識だが、岸田はどうなのか。

まずは経済政策。日本政府は1990年代半ばにバブルがはじけてからこの方30年も経済を再び成長軌道に乗せるため、ほぼあらゆる財政・金融政策を試みてきた。

景気テコ入れのための大盤振る舞いで財政赤字は拡大の一途をたどり、昨年末段階で政府の債務残高は先進国の中で最大のGDP比266%に上った。同時に過激な金融政策も駆使。日本銀行はこの8年余り国債やETF(上場投資信託)などの資産を大量に購入し、日銀の総資産はGDPに匹敵するまでに膨れ上がった。

だがいくらカンフル剤を打っても経済成長率は年率1%前後にとどまり続けた。唯一の救いは、その程度の成長率でも日本はどうにか豊かさを保っていることだ。

岸田の前任者、菅義偉は安倍晋三元首相が提唱したアベノミクスをほぼ忠実に踏襲した。金融緩和、財政出動、そして(これは掛け声倒れに終わったが)成長戦略の「三本の矢」から成る経済政策だ。

2012年の政権復帰後の第2次安倍政権は8年近い長期政権となったが、安倍は体調不良を理由に1年ほど前に退任。安倍が残した負のレガシー、言い換えればアベノミクスの副作用の1つは所得格差の拡大だ。岸田はその是正に全力を尽くすと誓っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドバイ国際空港、2024年の利用者は過去最多の92

ワールド

民間機近くの軍用ヘリ飛行を疑問視、米上院議員 空中

ワールド

ロシアの穀物輸出、EUの船舶制裁が圧迫 中銀が報告

ビジネス

大阪製鉄が自社株TOBを実施、親会社の日本製鉄が応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中