中国共産党の権力闘争と自民党の派閥争い
2012年3月に出版した『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』で詳述したように、胡錦涛政権までは「江沢民派(上海閥)」や「太子党(紅二代)」あるいは「団派(共青団派)」など、苛烈な権力闘争が展開されていて、中国共産党は一枚岩ではなかった。
2012年11月には第18回党大会が開催されることになっていたため、拙著『チャイナ・ナイン』は発売と同時に増版を重ね、筆者は日本記者クラブでも「チャイナ・ナイン」に関する講演をするなど、日本メディアは「チャイナ・ナイン」という言葉に沸いた。
その結果、多くの日本人の思考の中に、「中国共産党は権力闘争に明け暮れている」という概念がインプットされたためか、習近平政権の「チャイナ・セブン」になっても、「まだ権力闘争をしている」と勘違いする人が多く、筆者は誤解の種を蒔いてしまったと、奇妙な反省をするところに追い込まれている。
習近平の「真の狙い」を直視せよ
拙著『チャイナ・ナイン』のp.92あるいは本の「見返し」にある「政局人物相関図」にも示したように、胡錦涛は習近平の父・習仲勲を尊敬していた。P.92に書いた理由以外にも、前述の『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に詳述したように、胡錦涛の恩師でもあるような胡耀邦(当時、中共中央総書記)が鄧小平に虐められて下野を迫られたとき、胡耀邦のために声を上げて胡耀邦を守ったのは習仲勲一人だった。
したがって胡錦涛は習近平に中共中央総書記の座を渡すときに、中央軍事委員会主席の座も譲り渡しただけでなく、「チャイナ・セブン」を選ぶにあたり、習近平が最もやりやすいように全て譲歩している。但し、一つの条件を付けた。
それは「腐敗撲滅を何としても実行してくれ」ということだった。
「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が亡ぶ!」と、胡錦涛は第18回党大会初日における総書記としての最後の演説で叫び、習近平は党大会最終日の一中全会(中共中央委員会第一回全体会議)における中共中央総書記としての最初の演説で、胡錦涛と同じ言葉「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が亡ぶ!」と叫んで、胡錦涛との約束を実行することを誓った。こうして始まったのが「トラもハエも同時に叩く」という、大々的な反腐敗運動である。
これを日本の中国研究者あるいはメディアは「習近平の権力基盤が弱いので、敵対勢力を倒すために行っている」と合唱し、「チャイナ・セブン」(あるいは「チャイナ・ナイン」)という筆者が作った言葉を使いながら、現実とは全く異なる分析をして日本中を洗脳してしまった。
そのために、習近平が何をしているかが何も見えず、気が付けば日本は5Gや宇宙開発で、すっかり中国に出遅れてしまったのである。中国はミサイルなどの軍事力においてもアメリカを抜く分野があるほど先鋭化してしまった。