最新記事

中国

中国共産党の権力闘争と自民党の派閥争い

2021年9月19日(日)15時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

2012年3月に出版した『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』で詳述したように、胡錦涛政権までは「江沢民派(上海閥)」や「太子党(紅二代)」あるいは「団派(共青団派)」など、苛烈な権力闘争が展開されていて、中国共産党は一枚岩ではなかった。

2012年11月には第18回党大会が開催されることになっていたため、拙著『チャイナ・ナイン』は発売と同時に増版を重ね、筆者は日本記者クラブでも「チャイナ・ナイン」に関する講演をするなど、日本メディアは「チャイナ・ナイン」という言葉に沸いた。

その結果、多くの日本人の思考の中に、「中国共産党は権力闘争に明け暮れている」という概念がインプットされたためか、習近平政権の「チャイナ・セブン」になっても、「まだ権力闘争をしている」と勘違いする人が多く、筆者は誤解の種を蒔いてしまったと、奇妙な反省をするところに追い込まれている。

習近平の「真の狙い」を直視せよ

拙著『チャイナ・ナイン』のp.92あるいは本の「見返し」にある「政局人物相関図」にも示したように、胡錦涛は習近平の父・習仲勲を尊敬していた。P.92に書いた理由以外にも、前述の『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に詳述したように、胡錦涛の恩師でもあるような胡耀邦(当時、中共中央総書記)が鄧小平に虐められて下野を迫られたとき、胡耀邦のために声を上げて胡耀邦を守ったのは習仲勲一人だった。

したがって胡錦涛は習近平に中共中央総書記の座を渡すときに、中央軍事委員会主席の座も譲り渡しただけでなく、「チャイナ・セブン」を選ぶにあたり、習近平が最もやりやすいように全て譲歩している。但し、一つの条件を付けた。

それは「腐敗撲滅を何としても実行してくれ」ということだった。

「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が亡ぶ!」と、胡錦涛は第18回党大会初日における総書記としての最後の演説で叫び、習近平は党大会最終日の一中全会(中共中央委員会第一回全体会議)における中共中央総書記としての最初の演説で、胡錦涛と同じ言葉「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が亡ぶ!」と叫んで、胡錦涛との約束を実行することを誓った。こうして始まったのが「トラもハエも同時に叩く」という、大々的な反腐敗運動である。

これを日本の中国研究者あるいはメディアは「習近平の権力基盤が弱いので、敵対勢力を倒すために行っている」と合唱し、「チャイナ・セブン」(あるいは「チャイナ・ナイン」)という筆者が作った言葉を使いながら、現実とは全く異なる分析をして日本中を洗脳してしまった。

そのために、習近平が何をしているかが何も見えず、気が付けば日本は5Gや宇宙開発で、すっかり中国に出遅れてしまったのである。中国はミサイルなどの軍事力においてもアメリカを抜く分野があるほど先鋭化してしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中