中国共産党の権力闘争と自民党の派閥争い
何度も引用して申し訳ないが、習近平がなぜ反腐敗運動を始めたかに関しては、拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述している。
ここでは多くは書けないが、一つだけ取り上げたいのは「軍のハイテク化」だ。
軍部は中国建国以来、ソ連方式の編成体制で動いており、中国の場合はさらに陸軍を中心として地方分権化していった。軍区における腐敗は手の付けようがなく、軍の近代化の手かせ足かせとなったので、軍の幹部を腐敗の嫌疑で逮捕し、2015年に軍事大改革を断行して中央軍事委員会主席の直轄とする戦区に編成替えしてロケット軍を創設した。
この改革により中国は世界一のミサイル攻撃力を持つに至ったのである。
同時にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布して、AIや5Gあるいは半導体や宇宙開発でアメリカに追いつき追い越そうと全力投入を始めた。
昨日も、中国が独自に開発した宇宙ステーションに滞在していた宇宙飛行士たちが帰還したばかりだ。この宇宙ステーションは来年には正式に稼働する。
習近平が李克強と権力闘争をしているなどという噂で日本人を喜ばせている中国研究者は反省すべきだろう。日本人を騙している間に、中国は日本を経済的にも軍事的にも追い越してしまっている。
中国共産党と自民党における権力闘争の類似点と相違点
類似点:
●中央に「利権政治」が絡んでいるときは、派閥闘争が激しく国家戦略に欠ける。現在の自民党の中に「利権政治」が潜んでいないかを分析すべきだ。
●「党を永続させる」という目的においては、両者とも派閥を超えて一致している。党が滅びる(あるいは弱体化する)ようなことがあれば、それまで手にしてきた利権(あるいは栄誉や政治生命など)を失うからだ。
相違点:
●日本は「誰が総理大臣になるか」という「勝ち馬に乗る」ための派閥性が強く、「国家戦略」において大きな目標を見失っている(高市早苗候補は明確な国家観を持っているが)。
●最大の違いは、日本には民主主義があり、中国は一党支配体制であるということだ。それなのに日本は、まるで自民党の一党支配体制のようになっている。これは中国との類似点に入れるべきかもしれない。
なお、習近平が延安時代の革命精神を強調し、中国を中国共産党の原点に戻そうとしているのは、鄧小平の陰謀によって父・習仲勲が16年間にも及ぶ牢獄・軟禁生活を送らされたからであり、革命の聖地「延安」を築いたのは習仲勲だからだ。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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