韓国世論も日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判」に嫌気
大邱地裁は19年1月、原告の申請を受けて日本製鉄が有するリサイクル会社PNRの株式8万1075株、額面価格4億537万5000ウォン(約3600万円)の差し押さえに着手した。日本政府が関連書類を返送したため、同地裁は20年6月、差し押さえ決定書類が日本製鉄に届いたとみなす公示送達を行った。日本製鉄は即時抗告を行なったが、地裁が21年8月、棄却した。
PNRは韓国鉄鋼最大手のポスコが70%、日本製鉄(当時・新日本製鐵)が30%出資して設立した。ポスコが日本製鉄の持分を買収すると目されたが、同社は政治外交問題への関与は好ましくないという判断から買収しない方針を決めた。現金化手続きの応札者が日韓関係の新たな火種を生み、また、PNRの企業運営に影響が出る可能性もある。
水原地裁は8月18日、18年11月の大法院判決に基づいて、三菱重工が韓国企業に対して有する債権の差し押さえに着手した。三菱重工がLSエムトロンに販売した商品代金8億5310万ウォン(約8000万円)の取り立てを決定したが、LSエムトロンが、商品購入先は三菱重工ではないと反論した。その後、LSエムトロンが提出した資料で、同社の取引先は三菱重工の子会社の三菱重工エンジンシステムと判明。地裁は差し押さえ命令を解除し、暗礁に乗り上げた。
韓国人の約60%が、差し押さえと現金化に否定的
21年6月、ソウル地裁が元労働者らの請求を却下すると、韓国の法曹界やメディアが判決を批判し、裁判長の解任を求める声も上がったが、8月と9月の棄却は沈黙している。日韓シンクタンクの東アジア研究院などが20年9月に行った調査で、韓国人の約60%が、差し押さえと現金化に否定的だった。
国交正常化以降、最悪といわれる日韓関係は18年10月と11月の「大法院判決」に端を発する。19年7月、日本政府がキャッチオール規制に基づいて、韓国向け輸出管理を強化すると、韓国政府は日本政府が「大法院判決」に対する報復を行ったと主張して、日本製品不買運動が拡散し、日韓関係が急激に冷え込んだ。
韓国世論は、出口が見えず、日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判」に嫌気が差しており、裁判所の判断に少なからぬ影響を与えている可能性もありそうだ。