最新記事

日本

「ヒュブリス」だった東京五輪が日本に残す教訓

THE TOKYO "HUBRIS" OLYMPICS

2021年9月8日(水)10時30分
西村カリン(ジャーナリスト)

magSR20210908hubrisolympics-3.jpg

大会に合わせて来日したフランスのマクロン大統領 SERGIO PEREZ-REUTERS

既に選手らの意識は次の五輪に向かっており、東京五輪は過去のことだ。閉会式の翌朝から、フランスのラジオで東京五輪の報道はなく、2024年のパリ五輪にシフトした。

今大会は「復興五輪」と言われたが、その面でも完全に失敗だった。報道の基本は現場で取材することだから、東北地方に行く機会もない外国のマスコミは関心がなかった。いくら橋本会長が記者会見で「復興五輪」を連呼しても、報道されない。

そもそも、パンデミックの中での復興五輪など、実現するはずもない。大会中にスポーツの取材は一度もせず医療従事者に何度も会った私にとって、2021年の東京五輪と言えば、ある看護師の言葉だ。「スポーツは大好きだが、今回の五輪をテレビで見ても素直に喜べない」

私は今大会をフランス語で「ヒュブリス五輪」と名付けたい。ヒュブリスは傲慢、自信過剰の意。「日本ならできる」「ウイルスに打ち勝つ」「問題ない」「安全だ」――そんな言葉を繰り返す日本政府の姿勢をIOCは支持し、バッハ会長もこう強調した。

「日本人は歴史を通して忍耐力を発揮してきた。このような非常に困難な状況下での五輪が可能になるのは、日本人に逆境を乗り越える能力があるからだ」

尊大な権力者がいかに社会を混乱させるかを、考えさせられた五輪だった。

(※巨大スポーツイベントの未来、ゼロリスク信奉の是非、行き場のない不安と不満......本誌9月14日号「五輪後の日本」特集では、いくつもの側面から東京五輪を振り返る)

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政策金利、今年半ばまでに中立金利到達へ ECB当局

ビジネス

米四半期定例入札、発行額据え置きを予想 増額時期に

ビジネス

独小売売上高指数、12月前月比-1.6% 予想外の

ワールド

トランプ氏の米国版「アイアンドーム」構想、ロシアが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中