最新記事

BOOKS

自らの至らなさを自覚できるからこそ人間は偉大...現代世界の根源的理解を「神学」に学ぶ

2021年9月2日(木)12時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


善き御力持つ者らに

善き御力持つ者らにかかわりなく静かに囲まれ
護られ、こよなく慰められ
わたしはこの日々をあなた方とともに生き
ともに新しい年へと入ってゆく
いまなお古い年は私たちの心を苦しめ
いまわしい日々が私たちに重荷を負わせようとする
ああ、主よ、私たちの愕然たる魂を救いたまえ
そのためにあなたは私たちをお造りになったのです
あなたの差しだされるのが重く苦い苦悩の
なみなみとつがれた盃であろうとも
私たちはあなたの好ましい御手よりそれを
震えることなく感謝にみちて受けましょう
でも今一度あなたが私たちにこの世界と
その太陽の輝きの悦びを贈ってくださるなら
私たちは過ぎ去ったものを思い起こしつつ
人生を安んじてあなたに委ねます
私たちの暗闇にもたらされた蝋燭の火を
今日は暖かく明るくともしてください
なろうことなら私たちをまた一つに導いてください
知っています、あなたの光の夜輝くことを
深い静寂が私たちのまわりに広がるとき
眼に見えることなく私たちをつつむ世界の
かの澄んだ響きに私たちは耳を傾けます
あなたの子らすべての気高い賛美の歌声に
善き御力持つ者らにこよなく庇護され
何が来ようと心安んじて私たちは待とう
夜も朝も私たちのかたえに神はつねにある
そしてまちがいなくどの新しい日にも

(横手多佳子「殉教者ディートリヒ・ボンヘッファーにおける讃美歌と詩篇」)

ボンヘッファーはフロッセンビュルク強制収容所に収容されていました。人間の目では希望のかけらも見えない空っぽの暗闇に、自分の紡ぐ言葉が粉々に崩れてしまうような不安と絶望を味わっていたことでしょう。

しかし、「祈り」には力があるのです。

祈るとき、失意で曇ったボンヘッファーの目の前には、再現されたのではないかと思うのです。神の栄光と支配のもとで、当たり前のように思っていた毎日の生活、そして、世界が再び生き生きと響き合う光景が。いつ処刑されるかもわからないどん底にあったボンヘッファー。一九四五年四月九日に、とうとう処刑されてしまった彼が、これだけ希望と光に満ちた詩を書いた。そのことは、「祈り」が持つ力を雄弁に物語っているのではないでしょうか。

彼の祈りをもって今日の授業はここで終わりにしましょう。 それではまた、次の講義で会いましょう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中