最新記事

BOOKS

自らの至らなさを自覚できるからこそ人間は偉大...現代世界の根源的理解を「神学」に学ぶ

2021年9月2日(木)12時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
聖書と十字架の光

Boonyachoat-iStock

<リベラルアーツ教育で名高い国際基督教大学(ICU)の必須教養科目が待望の書籍化。その一部を3回にわたって掲載する>

日本のリベラルアーツ教育を牽引する国際基督教大学(ICU)で、必須教養科目として採択されているのが「キリスト教概論」だ。このたび、『ICU式「神学的」人生講義 この理不尽な世界で「なぜ」と問う』(CCCメディアハウス)として書籍になった。

魯恩碩(ロ・ウンソク)教授のパッション溢れる「キリスト教概論」は、信仰を勧めるための授業ではない。競争社会で他人を出し抜くことなく生きることはできるのか? 正当な暴力や戦争は存在するのか? そもそも、なぜ、すべての人間は等しく尊厳を持つのか? といった人間の根源的な、そして容易には答えが見つからないさまざまな「問い」について、神学を一つの柱に据えながら、学生たちと考え抜く授業である。

答えが見つからない問いに接したとき、どう対峙するか?

そのための力を身につけることは、まさにリベラルアーツ教育の本質だ。キリスト教は日本ではマイノリティの宗教だから、その影響力をイメージしにくいかもしれない。しかし、世界人口の3割以上の人たちが信仰し、共有している価値観や世界観を知ることが、他者理解に役立ちそうなのは理解できるだろう。

そして、もっと言えば、神学の教養を身につけることは、科学技術の発展、産業革命、リベラルな民主主義といった、「私たちが生きるこの世界」を築いている思想的土台を理解することにつながっている。

本連載では、3回にわたって、『この理不尽な世界で「なぜ」と問う』の一部を抜粋し、紹介する。第1回は、『第十講 この理不尽な世界で「なぜ」と問う:人間の有限性と「祈り」』より、人はなぜ祈るのかについての対話をお届けする。

■人は問う生き物――動物は祈らない

教授: ところで、神に祈ることや、神を信じることは、かなり不思議なことだと思う人も多いですよね。しかし、信じるということはそんなに不可思議な感覚でしょうか。

私たちは必ずしも、学問的に証明されていることにだけに基づいて生きているわけではありません。証拠のないこと、証明できないことも信じながら生きています。たとえば、大丈夫だと信じて飛行機に乗ります。この人ならと相手を信じて結婚します。

ウィリアム・ジェームズ(William James:1842 -1910)が『信ずる意志』で言ったように「人間は、人生で本物の選択に直面する際に、十分な証拠なしに何かを信じざるを得ない生き物」なのではないでしょうか。

楊: ウィリアム・ジェームズは、人は十分な証拠が揃うまで待つことができない生物だと考えているようですね。

教授: その通りですね。人は永遠に生きられないので、十分な証拠が揃うまで待つことはできません。限られた情報量のなかで、選択の決断を下さなければならないことが多くある、ということです。

これは宗教にも通じています。宗教の土台には、「人間の質問」があります。どんな有神論でも無神論でも、その土台には、「人間の質問」があります。

 著者:魯 恩碩
 出版社:CCCメディアハウス
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中