最新記事

BOOKS

自らの至らなさを自覚できるからこそ人間は偉大...現代世界の根源的理解を「神学」に学ぶ

2021年9月2日(木)12時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

人間は質問する。

この事実が、人が他の動物と異なるところです。「ホモ・サピエンス(Homo Sapiens:賢い人)」ではなく、「ホモ・クァレンス(Homo Quaerens:尋ねる人)」ですね。神は祈りません。なぜなら全知だからです。動物は祈りません。なぜなら自分の存在意義について疑問を持たないからです。けれども人間は、自分の存在の根源について、その意味について問い続けます。

なにが私の存在の根源なのか。
なにが私の存在の意味なのか。

自らの存在、その根源、意味について、疑問を持ち、問い続ける。そういうユニークな生き物が人間です。

『パンセ』(Pensées)を書いたブレーズ・パスカル(Blaise Pascal:1623 -1662)は、人間の偉大さがどこにあるかということについて、「人間の偉大さは自分の惨めさを知る事。/人間の偉大さは自分の無知を知る事。/人間の偉大さは自分の罪深さを知る事」と言いました。

人は何でも知っているから偉いのではなく、逆に無知であることを自覚しているから偉いのだ。人間はきれいで道徳的に素晴らしいから偉い、のではなく、むしろ惨めで罪深いということを自覚しているからこそ偉いのだ、と。

これは言い換えると、「人間の偉大さは、自分の有限性を知っていることにある」と言えるのではないでしょうか。惨めさ、無知さ、罪深さ、といったものは、どれも人間の有限性を表しています。つまり、パスカルの言葉は「人間は有限な存在であることを知っているからこそ偉い」と言い換えられます。

では、なぜ人間がある種の弱さ、ネガティブな点である自らの有限性に気づくことは偉いのでしょうか。その理由は、そこにこそ、その有限性を乗り越える可能性が開かれているからです。

たとえば先ほど述べたように、問い続けるという行為も、その一つですね。そう考えると、祈りとは、まさに「自らの有限性の自覚」に由来するものである、と言えそうです。

自分の限界を知る存在である。
自分の限界を知っている。
だから人間は祈る。

私はそう思います。祈る生き物は人間しかない。「ホモ・オーランス(Homo Orans:祈る人)」です。祈りは人を人たらしめる本質の一つなのではないでしょうか。

つまり、祈りというのは、なにも、信仰者だけがするものではないのです。信仰のあるなしにかかわらず、自分の限界を知る者は祈りたいという気持ちになる。ですから、この世界で「祈り」という言葉がない言語はないそうです。(略)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中