最新記事

BOOKS

自らの至らなさを自覚できるからこそ人間は偉大...現代世界の根源的理解を「神学」に学ぶ

2021年9月2日(木)12時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■正直な気持ちを受け止めるキリスト教

教授: 旧約聖書に詩編という書物があります。読むと、詩編を書いた人々がいかに正直に、驚くほど正直に、自分の気持ちを神に打ち明けているのかがよくわかります。宗教改革者カルヴァンは詩編を「魂の解剖図」と呼んだほどです。もちろん、詩編113-118編や、146-150編のように、「ハレルヤ」というキリスト教の賛美の言葉がたくさん出てくる祈りも多数あります。しかし、もう一方では詩編22編のような祈りもあります。

22編は、イエス・キリストが十字架の上で死ぬ直前に叫んだ祈りです。


 わたしの神よ、わたしの神よ  なぜわたしをお見捨てになるのか。

これは、願いでも感謝でもありませんよね。どちらかといえば、エレミヤの告白〔※編集部注:旧約聖書の「エレミヤ書」20章7-18節。「主よ、あなたがわたしを惑わし」にはじまり、苦しい人生の意味について、エレミヤは神に、「なぜ」「どうして」と問い続ける〕のような祈りです。叫びであり、怒りであり、悲しみであり、格闘であり、苦しみである。ありのままの表現です。

キリスト教ではこのような率直な祈りを神への不敬(ふけい)だと批難しません。そうではなく、神に真正面から誠実にぶつかる勇気と捉え、信仰の表現として尊重します。(略)

■どん底で綴られた希望の詩――ボンヘッファーの祈り

田村: 私は、ボンヘッファーの言葉を思い出しました。

「われわれは――《たとえ神がいなくとも》(etsi deus non daretur)――この世の中で生きなければならない。このことを認識することなしに誠実であることはできない。そして、まさにこのことを、われわれは――神のみ前で認識する! 神ご自身が、われわれを強いて、この認識にいたらせたもう」

教授: 第五講にも出てきたディートリヒ・ボンヘッファーはナチズムに抵抗して殉教したドイツの牧師であり、神学者ですね。せっかくボンヘッファーの名前が出ましたので、彼がつくった最後の讃美歌の歌詞を紹介しましょう。ドイツの讃美歌集の637番に、信仰・愛・希望の曲として収録されています。第二次世界大戦終結後、この詩には旋律がつけられ、現在では世界各地で歌いつがれています。私はこの詩が、ボンヘッファーの信仰と神学が結実した「祈り」に他ならないと思っています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中