AUKUSは対中戦略に有効か?──原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解
しかし、オーストラリアの最大貿易国は中国(中国26.4%、日本9.9%、アメリカ8.6%)であることとの整合性をどうつけるのか。経済繁栄なしでは国民は喜ばない。したがってオーストラリアは「バイデンがアフガニスタンからの米軍撤退の失態を覆い隠すために焦ってAUKUSを立ち上げたりGUADの対面会談を演出して見せたりする茶番劇に便乗しただけに過ぎない」と、突き放した見方をしている。
決して日本が好んで報道するところの「中国激怒」とはなっておらず、むしろ中国のネット全体の反応としては
●えっ?AUKUSって、対中軍事包囲網じゃなかったっけ?それが米・EUの亀裂に発展しているって、どういうこと?面白くない?
●いや、これはアングロサクソン系と非アングロサクソン系の喧嘩だよ、やらせておけよ。2040年まで待とうぜ!
といった茶化したニュアンスのものに満ちている。
自民党総裁候補の見解は?
明日は自民党総裁選の投票日だ。日本人の関心は今そこにしかなく、筆者も実はそのことばかりが気になっている。したがって自民党総裁4候補がこの原潜に関してどのような見解を持っているのか気になるところだ。
産経新聞の<日本の原潜保有に河野氏、高市氏前向き>という報道によれば、河野氏は「能力的には、日本が原子力潜水艦を持つというのは非常に大事だ」と強調したそうだ。あれだけ「脱原発」を主張していた河野氏は、総裁選立候補に伴い、これまでの主張を封印しただけでなく、オーストラリアでも国民の反対により撤廃されるかもしれない原潜に賛同する節操のなさは、河野氏が如何に「情勢に合わせて適当に主張を曲げるか」の証しで、話が情緒的で大雑把だ。
それに比べ高市氏は「日本が持っている通常型の潜水艦も優れもので近海で使うには十分だが、今後の国際環境や最悪のリスクなどを考えると、共同で長距離に対応できるものはあっていいのではないか」と語っているが、実に主張が首尾一貫しているだけでなく、知識が豊富で正確である。
岸田氏は「原子力の技術は大事だが、日本の安全保障の体制を考えた場合、どこまで必要なのか」と指摘。そのうえで「わが国の潜水艦体制の最大の弱点は人員の確保だ。処遇改善、人員確保を優先的に考えるべきだ」と語ったとのこと。
これも原潜製造の際の最大の欠陥を実に正確に指摘している。
実はオーストラリアの原潜製造が20年先の2040年にしか完成しないのは、この「人材」が欠如しているからで、オーストラリアで製造しなければ「レンタル」に等しく「技術移転」にはならないので、まさに岸田氏の回答通り「弱点は人員の確保」にある。
この一点から見ても、次期総裁、そして次期首相は、岸田氏か高市氏しか考えられない。
明日の投票結果が楽しみでならず、それもあり本稿執筆を急いだ次第だ。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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