最新記事

中国

AUKUSは対中戦略に有効か?──原潜完成は2040年、自民党総裁候補の見解

2021年9月28日(火)16時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかし、オーストラリアの最大貿易国は中国(中国26.4%、日本9.9%、アメリカ8.6%)であることとの整合性をどうつけるのか。経済繁栄なしでは国民は喜ばない。したがってオーストラリアは「バイデンがアフガニスタンからの米軍撤退の失態を覆い隠すために焦ってAUKUSを立ち上げたりGUADの対面会談を演出して見せたりする茶番劇に便乗しただけに過ぎない」と、突き放した見方をしている。

決して日本が好んで報道するところの「中国激怒」とはなっておらず、むしろ中国のネット全体の反応としては

 ●えっ?AUKUSって、対中軍事包囲網じゃなかったっけ?それが米・EUの亀裂に発展しているって、どういうこと?面白くない?

 ●いや、これはアングロサクソン系と非アングロサクソン系の喧嘩だよ、やらせておけよ。2040年まで待とうぜ!

といった茶化したニュアンスのものに満ちている。

自民党総裁候補の見解は?

明日は自民党総裁選の投票日だ。日本人の関心は今そこにしかなく、筆者も実はそのことばかりが気になっている。したがって自民党総裁4候補がこの原潜に関してどのような見解を持っているのか気になるところだ。

産経新聞の<日本の原潜保有に河野氏、高市氏前向き>という報道によれば、河野氏は「能力的には、日本が原子力潜水艦を持つというのは非常に大事だ」と強調したそうだ。あれだけ「脱原発」を主張していた河野氏は、総裁選立候補に伴い、これまでの主張を封印しただけでなく、オーストラリアでも国民の反対により撤廃されるかもしれない原潜に賛同する節操のなさは、河野氏が如何に「情勢に合わせて適当に主張を曲げるか」の証しで、話が情緒的で大雑把だ。

それに比べ高市氏は「日本が持っている通常型の潜水艦も優れもので近海で使うには十分だが、今後の国際環境や最悪のリスクなどを考えると、共同で長距離に対応できるものはあっていいのではないか」と語っているが、実に主張が首尾一貫しているだけでなく、知識が豊富で正確である。

岸田氏は「原子力の技術は大事だが、日本の安全保障の体制を考えた場合、どこまで必要なのか」と指摘。そのうえで「わが国の潜水艦体制の最大の弱点は人員の確保だ。処遇改善、人員確保を優先的に考えるべきだ」と語ったとのこと。

これも原潜製造の際の最大の欠陥を実に正確に指摘している。

実はオーストラリアの原潜製造が20年先の2040年にしか完成しないのは、この「人材」が欠如しているからで、オーストラリアで製造しなければ「レンタル」に等しく「技術移転」にはならないので、まさに岸田氏の回答通り「弱点は人員の確保」にある。

この一点から見ても、次期総裁、そして次期首相は、岸田氏か高市氏しか考えられない。

明日の投票結果が楽しみでならず、それもあり本稿執筆を急いだ次第だ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トラン

ワールド

仏財務相、予算協議は「正しい方向」 不信任案可決の

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年は2.1%と予想=ECB

ビジネス

アングル:米で広がる駆け込み輸入、「トランプ関税」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中