ロシアのワクチン「スプートニクV」、治験データ不備で欧州商機逃す可能性も
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ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の承認が欧州などで遅れている背景には、欧州連合(EU)の規制に基づき規制当局が求めた実証データを開発者が提供できていない実態があるとみられる。写真はオランダ・アムステルダムの欧州医薬品庁(EMA)の建物。2020年12月撮影(2021年 ロイター/Piroschka van de Wouw)
ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の承認が欧州などで遅れている背景には、欧州連合(EU)の規制に基づき規制当局が求めた実証データを開発者が提供できていない実態があるとみられる。現時点でスプートニクVの安全性と有効性に疑いは生じていないが、データが提出されないことによる審査の遅れにより、ロシアは競合メーカーに主要市場を奪われる可能性がある。
データ不備で審査に数カ月の遅れ
ロイターは先月、欧州医薬品庁(EMA)が6月10日までにスプートニクVの臨床試験データを提出するよう開発者側に求めたが期限が守られず審査が遅れたと報じた。EMAは6月初めの時点で製造上のデータをほとんど受け取っておらず、提供された臨床データも不完全なものだった。
EMAに近い筋の情報に基づくと、提出されていない臨床データの中でも特筆すべきなのは、治験中に発生した副反応を記録した「症例報告書」だ。偽薬を投与された人々の反応をどう追跡したかも報告されていないという。
EMAは3月にスプートニクVの正式審査を開始しており、当初は5月か6月に使用承認の可否を決める予定だったが、関係者によると、審査完了は夏以降にずれ込むと予想されている。
これとは別に、スプートニクVが承認された場合、国内で使用・製造するかどうかを見極めるためにフランスがモスクワに派遣した科学者チームの調査でも、ワクチン製造の基材、いわゆる「マスターセルバンク」がEUの規制を順守していることを示すデータが得られなかった。
EMAは審査の詳細についてのコメントを控えつつ、全ての申請者に同じ基準を適用しており、コロナワクチンの承認には「安全性、有効性、品質について詳細な情報」が必要になるとの見方を示した。
データの不備は欧州以外でもスプートニクVの拡販に影響を与えており、ブラジルでは州知事らから要請のあった緊急輸入申請の許可が政府から下りず、緊急承認などで購入を急いだスロバキアやハンガリーでも保健当局はデータが不十分だったことを指摘している。
安全性に疑いなし、問題は「経験不足」
EUの審査に詳しい筋によると、スプートニクVが安全で有効なワクチンであることを疑う理由は見つかっていない。2月に医学誌「ランセット」に掲載された国際的な科学者らの調査結果では、有効性が90%を超えることが示されている。
スプートニクVを開発したロシア国立ガマレヤ研究所とやり取りした複数の人物は、データ提供が繰り返し遅れている原因は、外国当局との交渉経験の不足にあるとみている。「(ガマレヤの科学者らは)EMAのような規制機関と協力するのに慣れていないようだ」(関係者)という。