最新記事

自然破壊

アマゾン熱帯雨林は二酸化炭素の吸収源から排出源に転換していた

2021年7月16日(金)18時30分
松岡由希子

アマゾン熱帯雨林の森林火災などにより、二酸化炭素排出が増えた REUTERS/Bruno Kelly

<気候変動や森林破壊により、アマゾン熱帯雨林の一部が二酸化炭素の吸収源から排出源に転じていることが明らかとなった>

アマゾン熱帯雨林は、現存する熱帯雨林の約半分を占める世界最大の熱帯雨林で、大気中の二酸化炭素を吸収する役割を担ってきた。しかし、気候変動や森林破壊により、アマゾン熱帯雨林の一部が二酸化炭素の吸収源から排出源に転じていることが明らかとなった。

森林火災の発生が増え、炭素排出量が増加した

大気中に排出された二酸化炭素のうち25%は陸上植物や土壌が吸収している。なかでも、アマゾン熱帯雨林は、他の植生よりも効率的に二酸化炭素を吸収・貯留し、4500億トンもの二酸化炭素を蓄えている。

ブラジル国立宇宙研究所(INPE)の研究チームは、気候変動や森林破壊が熱帯雨林の炭素排出量に与える影響を解明するべく、アマゾン熱帯雨林の4地点で、2010年から2018年まで計590回にわたり、地表から海抜約4.5キロまでの鉛直プロファイリング測定により、対流圏下部の二酸化炭素濃度および一酸化炭素濃度を調査した。

2021年7月14日に学術雑誌「ネイチャー」で掲載された研究論文によると、アマゾン熱帯雨林の東部は西部よりも総炭素排出量が多かった。なかでも、南東部は二酸化炭素の排出量が吸収量を上回り、二酸化炭素吸収源から大気への炭素排出源に転換していた。

過去40年にわたり、アマゾン熱帯雨林の東部は西部よりも森林破壊や高温、干ばつにさらされてきた。特に乾季の間、南東部ではこの傾向が最も強くみられた。研究チームは「厳しい乾季と森林破壊の増加により生態系に負荷がかかり、森林火災の発生が増え、炭素排出量が増加したのではないか」と考察している。

熱帯雨林の二酸化炭素排出量がその吸収量を約20%上回った

アマゾン熱帯雨林の二酸化炭素の吸収・貯蔵機能が低下していることは、これまでの研究成果でも明らかにされてきた。

フランス国立農学研究所(INRA)、英エクセター大学、米オクラホマ大学らの研究チームが2021年4月に発表した研究論文では「ブラジルのアマゾン熱帯雨林では、2010年から2019年までの二酸化炭素吸収量が139億トンであった一方、その排出量は166億トンであった」とし、この熱帯雨林の二酸化炭素排出量がその吸収量を約20%上回ったことが示されてい
る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中