クアッドで中国は封じ込められない...「対中包囲網」には致命的な欠陥が
The Quad Is a Delusion
アメリカが台湾防衛での共同戦線を呼び掛けても、日本は関与を避けてきた。今年4月の日米首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定」に言及したことについて、菅義偉首相は軍事的関与を前提としたものではないと明言した。アメリカが守ってくれるなら日本がリスクを冒す理由はない。
オーストラリアも連携をさほど強化できないだろう。豪海軍は南シナ海まで5000キロ近く、台湾まではさらに約800キロ航行しなければならない。到着後は中国のミサイルや潜水艦、軍用機からの攻撃に加え、部隊への補給線となる海上交通路の切断を狙う中国軍の軍事作戦が待ち受ける。
近年の中国の台頭はこの海域のパワーバランスを変えてきた。豪海軍は日米印の共同海上演習「マラバール」に2回(07年と20年)参加したが、戦力不足で中国軍に対する海上作戦はアメリカの思惑の域を出ない。
NSCのキャンベルらはオーストラリアの海軍戦略拡大に熱心だが、状況は変わらないはずだ。ロウイー国際政策研究所の6月の世論調査では、オーストラリア国民の57%が米中の軍事衝突では「中立維持」と回答した。
クアッドを純粋に軍事的な観点で判断するべきではないかもしれない。結局、戦略とは武力が全てではないのだ。
中国側の「報復」が怖い
それでも全体図は変わらない。クアッドが東アジアにおける中国の影響力拡大に対抗する政治的パートナーシップでもあるなら、4カ国は具体的に何をし、役割分担はどうなるのか。中国と敵対国の対立に巻き込まれることを嫌うASEANの逃げ腰をどう克服するのか。
アメリカを除く3カ国は中国に経済的圧力をかけることはできるかもしれない。だが対中貿易・投資に依存している以上、一時的で慎重なものにならざるを得ないだろう。
輸出の約39%を中国向けが占めるオーストラリアがいい例だ(対米は4%未満)。オーストラリアは香港と新疆ウイグル自治区での中国による人権侵害を批判し、中国通信大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を5G通信網から排除。さらに新型コロナウイルスの起源について独立調査を要求した。
これに反発した中国はオーストラリア産のワインに最大200%超、大麦に80%の反ダンピング関税を発動。さらにイセエビ(96%が中国向け)を税関で止め、食肉も一部輸入停止に。石炭の荷揚げも差し止めて、オーストラリアからの貨物船を数カ月にわたり海上で立ち往生させた。
オーストラリアは屈しなかったが、中国の狙いは別にある。オーストラリア以外の国々にもメッセージを送ることだ。
クアッドが消滅することはない。今後も首脳会談を開催し、声明を出し、海上演習を実施するだろう。だがクアッドをアメリカの新・対中包囲戦略の核にしようと考えるのは間違いだ。
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