最新記事

クアッド

クアッドで中国は封じ込められない...「対中包囲網」には致命的な欠陥が

The Quad Is a Delusion

2021年7月8日(木)10時10分
ラジャン・メノン(ニューヨーク市立大学シティーカレッジ教授)

210713P30_QAD_02.jpg

今年3月にはオンラインでクアッド初の首脳会議も開催されたが TOM BRENNERーREUTERS

中国にとって、アメリカは依然として強大な敵だ。しかし、ここで考えるべき問題は、クアッドのほかの国々に何ができるかということだ。大々的に喧伝されてはいるが、あまり期待はできない。

例えば、インドの人口は中国とほぼ同じ。出生率はインドのほうが高く、人口で中国を抜く日も近いだろう。

人口は国力を表す指標の1つだが、国の資産になるかどうかは、人的資源の発展に大きく依存する。この点については、寿命、教育水準、技術力、カロリー摂取量、健康など大半の指標で、中国がインドを大きくリードしている。

軍事力と技術力の格差

技術に関しても同様で、その差はますます広がるだろう。中国のGDPはインドのおよそ4倍で、さらに技術研究開発費の対GDP比率はインドの0.7%に対し中国は2%。年間の研究開発費はインドが約480億ドルで、研究者は人口100万人当たり156人。中国はそれぞれ約3460億ドル、1089人だ。

インターネットの普及率、学校や大学、インフラの質、最先端技術の成果(ロボット、人工知能、5Gなど)を比較すると、中国の圧倒的な優位があらためて浮き彫りになる。

こうした中国の技術全般にわたる明確な優位性と、インドの約4倍に上る軍事予算によって、その差は一層広がるだろう。さらに、インド軍は南シナ海まで3500キロ以上移動しなければならないが、中国軍はインド北部の広大な辺境に展開している。

従って、アメリカの中国に対する抑止力としてインドに何ができるのか、具体的に想像することは難しい。

東アジアで最も中国の復権を懸念しているのは(台湾を除けば)、歴史的・地理的理由で恐らく日本だろう。インドに比べれば日本は大きな強みがある。日本の名目GDPは中国の40%未満とはいえ世界第3位、人口1人当たりの実質GDPは中国の2.5倍だ。日本の人的資本は良質で、豊富な熟練労働力と科学的専門知識に支えられ技術力もトップクラスだ。

軍事面では、日本の自衛隊は最先端技術を誇り、先端防衛産業が生み出すハイテク兵器は世界クラスと評される。しかし中国の国防費は日本の5倍、戦争での勝利に不可欠な兵器の数も日本を上回る。日本の防衛費は9年連続で増加したが、対GDP比は60年近くほぼ1%未満で推移してきた。大幅な拡大は原則可能だが、その兆しはない。従来の方針を貫いて反中の軍事的連携に加われば、日本は大きなリスクを負うことになる。

日米安全保障条約では米中有事の際に自衛隊は米軍を援護する義務はないが(第5条はアメリカの対日防衛義務を定めたもの)、深入りすれば中国のミサイル攻撃や空爆を受けかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中