最新記事

クアッド

クアッドで中国は封じ込められない...「対中包囲網」には致命的な欠陥が

The Quad Is a Delusion

2021年7月8日(木)10時10分
ラジャン・メノン(ニューヨーク市立大学シティーカレッジ教授)
南シナ海に派遣された米空母(2020年7月6日)

大規模軍事演習のため南シナ海に派遣された米空母(昨年7月6日)。アメリカの中国への対抗姿勢は強まる一方だ KEENAN DANIELSーU.S. NAVY

<確実に高まる中国の脅威。だが、インド太平洋地域でアメリカ頼みの包囲網に抑止力は期待できない>

二極化が著しい米政界だが、中国政策については党派を超えて大きなコンセンサスがある。中国をパクス・アメリカーナ(アメリカの力による平和)の最大の脅威と見なしていることだ。

対中強硬派として知られるトム・コットン上院議員など共和党のタカ派は、中国によるレアアースの輸出規制や軍備増強に、アメリカに対する野心が反映されていると警戒している。

右派は民主党が中国に甘いと評するが、ジョー・バイデン米大統領は就任前から、アジアの同盟国であるオーストラリア、日本、韓国にインド太平洋地域で中国に対抗しようと呼び掛けてきた。

6月3日には、通信など59社の中国企業にアメリカ人が株式投資をすることを禁止する大統領令に署名。中国に対する懲罰的な経済政策は、ドナルド・トランプ前政権の路線を引き継ぐものだ。

カート・キャンベル国家安全保障委員会(NSC)インド太平洋調整官は5月に、対中政策について「広義で関与と称された時代は終わった」と語っている。

アメリカの対中政策が政権交代でも変わらないことを示すもう1つの例は、クアッド(日米豪印戦略対話)の強化だ。クアッドは2007年の安倍晋三首相(当時)の発案から、インド太平洋地域4カ国で安全保障などを協議する枠組みとして誕生した。今年3月に初の首脳会議が行われ、共同声明が発表された。

結局はアメリカ頼みになっている

続いてアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が日本と韓国を歴訪。オースティンはインドも訪問した。

中国政府は即座に反応し、クアッドは平和に対する真の脅威だと非難した。5月にはインド太平洋の小国バングラデシュに、クアッドに協力しないよう警告。中国は昨年9月にも、ASEANで同様のメッセージを発信している。

新興勢力の台頭は反発を呼ぶものだが、クアッドの問題点は別にある。多国間の枠組みという名を借りて、結局はアメリカ頼みになっていることだ。

クアッド4カ国のうち、中国と衝突する可能性が最も高い東シナ海と南シナ海において、大規模かつ強力で、永続的な軍事的プレゼンスを維持できるのはアメリカだけだ。

中国の核兵器は日本やオーストラリアに対して、さらには核を持つインドにも、威圧的な手段として機能するだろう。ただし、中国より多くの核兵器を保有するアメリカには通用しない。

中国と核を使わない軍事衝突が起きれば、アメリカは有利な条件で勝利するか、少なくとも戦争を終わらせることはできるかもしれない。しかしこの数十年で、人民解放軍は、戦争になればアメリカが確実に大きな代償を払うことになるだけの力は付けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍機の安全な飛行阻害したとの指摘は当たらない=

ワールド

中ロの新ガスパイプライン計画、「膨大な作業」必要と

ワールド

ゴールドラッシュかリスクか、AIに世界の大口投資家

ワールド

ウクライナが水上ドローン攻撃、「影の船団」タンカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中