最新記事

世界経済

コロナ後の経済回復、「飛躍する国」と「沈没する国」がはっきりしてきた

THREE WARNINGS FOR EMERGING ECONOMIES

2021年6月30日(水)18時15分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
インドネシアの紙幣

AsianDream-iStock

<世界銀行「世界経済見通し」を分析すると、新興国の中での格差や懸念すべきポイントが見えてくる>

世界銀行が年2回発表する「世界経済見通し」は新興市場や途上国の現状と見通しを評価する上で最も貴重な情報源だ。特に6月8日発表の最新版は重要な点で警鐘を鳴らしている。

ポイントは3つ。第1に、世界経済は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響から回復傾向にあるが、ワクチン接種が急速に進む先進国ではパンデミック前と同水準かそれ以上の回復の兆しが見えるのに対して、新興国・途上国の見通しは明暗入り交じる。

新興市場の伸びが最も期待できるのは東アジア・太平洋地域で、2021年のGDP成長率は7.7%と南アジアの6.8%を上回る見込みだ。現在、中国、ベトナム、バングラデシュがパンデミック前の水準を上回っているが、ベトナムとバングラデシュはもともと低い水準で、高成長を維持できる状況にある。

潜在力ではインドネシアも注目に値する。感染対策は万事順調だったわけではないが、果敢なワクチン接種計画を実施。接種完了率(6月24日時点)は4.6%で、スリランカ(4%)やインド(3.8%)、タイ(3.5%)、ベトナム(0.1%)などアジアの多くの国を上回っている。

大半の途上国の見通しは暗い

プロスペラ(オーストラリアとインドネシアの経済開発パートナーシップ)のデラ・テメングンらは4月16日に発表した論文で、インドネシア経済が周辺国より好調な理由としてコロナ封じ込めと構造改革のバランスが取れている点を指摘した。世銀はインドネシア経済が21年の4.4%から22年は5%と比較的緩やかな伸びを予測する一方、中期的な潜在力も強調している。

しかし途上国の大半で中期的な見通しは暗い。世銀の予測では、新型コロナの影響で世界の貧困者数は21年に1億4300万~1億6300万人増加するが、増加分の半数以上を南アジア、主にインドが占めている。インドの場合、経済ファンダメンタルズ(基礎的条件)は堅調だ。問題は経済運営とコロナ対策のお粗末さで、その結果、「信頼および財政状態が回復していない」という。

第2に、インフレをめぐる警告だ。私たち経済学者はインフレについて実はほとんど知らない。それをカバーするため過度に用心深くなり、物価上昇の兆しが見えただけで厳しい予防措置を支持する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な

ビジネス

トランプ関税、「コロナ禍規模の衝撃」なら物価懸念=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中