最新記事

フィリピン

「ワクチン接種しなければ投獄」でも拒否するフィリピン国民が忘れない「苦い経験」

2021年6月29日(火)17時54分
セバスチャン・ストランジオ
フィリピンのドゥテルテ大統領

ドゥテルテの新型コロナ対策は迷走中 ELOISA LOPEZーREUTERS

<ワクチン接種による新型コロナ抑え込みのため過激な言動を繰り返すドゥテルテ大統領だが、国民が従わない訳とは>

「新型コロナウイルスのワクチン接種を拒む者は投獄する」。フィリピンのドゥテルテ大統領は、首都マニラの複数の接種会場で接種人数が少ないという報告を受けて、6月21日にテレビ演説で国民に警告した。「私は政府の言うことを聞かない人々に怒っている」

常軌を逸した発言で知られる大統領だから、いつもの捨てゼリフだと思いたくなる。ただし、ドゥテルテの場合、とっぴな発言の裏に、断固として実行するという決意が潜んでいることも少なくない。

2016年の大統領就任直後に勃発した「麻薬戦争」では超法規的な強硬手段も辞さず、1万人以上の死者を出した。その後、人道に対する罪に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に乗り出した。

新型コロナに関しても、ロックダウン(都市封鎖)や感染者の隔離を確実に行うために、時として容赦はしない。今年4月には外出禁止令を破った男性が、警察官からスクワットのような運動を300回強要された後に死亡した。

しかし、こうした懲罰的措置も、新型コロナの蔓延を食い止めることはほとんどできずにいる。フィリピンの累計感染者数は130万人以上、死者は2万4000人を超えている。いずれも東南アジアで2番目に多い。

安全性への不安と効果への疑問

ワクチン接種も進んでいない。6月22日現在、少なくとも1回接種したのは893万人で、人口のわずか6.1%。年内に全国民1億1000万人のうち7000万人に接種を済ませるという政府の目標は、実現が遠のくばかりだ。

ドゥテルテは21日の演説で、村の指導者は接種を拒否した人の名前を記録するべきだとも言及した。さらに、学校の対面授業の再開延期と、フェイスシールド着用の義務付けの継続も発表した。

接種率が低い理由の1つは、国民が躊躇していることだ。調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーションズが5月に発表した世論調査では、政府のワクチン接種プログラムを信頼すると答えた人は成人のわずか51%。フィリピンの食品医薬品局が承認したワクチンを無料で接種できるなら受けたいと答えた人は32%だった。

接種を迷う理由として、39%の人が副反応への不安を挙げ、21%はワクチンの安全性と効果に疑問を呈した。さらに、11%の人が「ワクチンが怖い」「信用できない」と答えている。調査機関パルスアジアによる最近の調査では61%が接種しないと答えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中