「ワクチン接種しなければ投獄」でも拒否するフィリピン国民が忘れない「苦い経験」
ドゥテルテの新型コロナ対策は迷走中 ELOISA LOPEZーREUTERS
<ワクチン接種による新型コロナ抑え込みのため過激な言動を繰り返すドゥテルテ大統領だが、国民が従わない訳とは>
「新型コロナウイルスのワクチン接種を拒む者は投獄する」。フィリピンのドゥテルテ大統領は、首都マニラの複数の接種会場で接種人数が少ないという報告を受けて、6月21日にテレビ演説で国民に警告した。「私は政府の言うことを聞かない人々に怒っている」
常軌を逸した発言で知られる大統領だから、いつもの捨てゼリフだと思いたくなる。ただし、ドゥテルテの場合、とっぴな発言の裏に、断固として実行するという決意が潜んでいることも少なくない。
2016年の大統領就任直後に勃発した「麻薬戦争」では超法規的な強硬手段も辞さず、1万人以上の死者を出した。その後、人道に対する罪に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に乗り出した。
新型コロナに関しても、ロックダウン(都市封鎖)や感染者の隔離を確実に行うために、時として容赦はしない。今年4月には外出禁止令を破った男性が、警察官からスクワットのような運動を300回強要された後に死亡した。
しかし、こうした懲罰的措置も、新型コロナの蔓延を食い止めることはほとんどできずにいる。フィリピンの累計感染者数は130万人以上、死者は2万4000人を超えている。いずれも東南アジアで2番目に多い。
安全性への不安と効果への疑問
ワクチン接種も進んでいない。6月22日現在、少なくとも1回接種したのは893万人で、人口のわずか6.1%。年内に全国民1億1000万人のうち7000万人に接種を済ませるという政府の目標は、実現が遠のくばかりだ。
ドゥテルテは21日の演説で、村の指導者は接種を拒否した人の名前を記録するべきだとも言及した。さらに、学校の対面授業の再開延期と、フェイスシールド着用の義務付けの継続も発表した。
接種率が低い理由の1つは、国民が躊躇していることだ。調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーションズが5月に発表した世論調査では、政府のワクチン接種プログラムを信頼すると答えた人は成人のわずか51%。フィリピンの食品医薬品局が承認したワクチンを無料で接種できるなら受けたいと答えた人は32%だった。
接種を迷う理由として、39%の人が副反応への不安を挙げ、21%はワクチンの安全性と効果に疑問を呈した。さらに、11%の人が「ワクチンが怖い」「信用できない」と答えている。調査機関パルスアジアによる最近の調査では61%が接種しないと答えている。